マニア社員の活躍

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   マニア社員の活躍

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 車両が配属されている、とある区所。いわゆる「車庫」に、鉄道マニアの
 社員がいた。彼は中途採用で入社した大卒で、前職は鉄道車両の機器メーカー。
 そこで技術者をしていた。
 鉄道会社の技術者は、技術者と言っても図面を描くような人はほとんどいない。
 立場上はメーカーより鉄道会社の方がはるかに優位ではあるが、技術面では
 常に負い目を感じており、メーカーに対する心境は複雑なものがある。そんな
 鉄道会社に、メーカー出身の技術者が加わるのは心強いことであった。

 期待されて入社した彼だが、実は筋金入りの鉄道マニアだった。メーカー
 技術者としての経歴が買われ、車両担当として入社したにも関わらず、乗務員
 がやりたくて毎回乗務員の試験を受ける。
 車両メンテナンスの人が乗務員試験を受けるのは、ルールとしては問題ないが、
 建前と本音があるのが大人の社会であり、鉄道はそれが濃厚な陰湿な世界
 である。 乗務員へのキャリアパスは、実質、駅員からのルートしかない。
 それ以外のルートで乗務員になることはほとんどなく、ましてや中途採用で
 車両メンテナンス部門に入った人が、乗務員になることはありえないのだ。
 「あいつはアホか・・・」
 彼の熱意を評価する人はいない。呆れるだけである。
 試験の結果は、毎回不合格。二十歳そこそこの高卒の若い子たちが続々と
 合格する中、大卒でメーカー技術者として活躍していた彼が不合格となる。
 この会社の仕打ちから、鉄道の陰湿な掟を悟ってもよさそうなものだが、
 毎年受験する。ご苦労なことである。

 その他にも彼は、区所にある廃車予定の車両から、車号が書かれたプレート
 を持ち帰ったり、仕事と言うより趣味に近い写真を撮ってきたり、周りに
 迷惑をかけるわけではないが、そのマニアとしての行動に白い目が向けら
 れていた。

 そんな彼だが、鉄道マニアの知識を業務に役立てたことが一度あった。
 彼の区所に新車が投入されることになり、その走行試験に添乗したときの
 ことである。
 都市部を走る通勤用車両の新車だが、試運転(本線での走行試験)は、列車
 本数の少ないローカル線で行われた。新車の企画から最後の走行試験まで、
 鉄道会社側で関わるのは本社の運輸部だけで、支社や区所の人はこの試運転
 で初めて新車に触れる。
 私は、このとき支社の車両担当として、マニアの彼と一緒に試運転に添乗
 した。

 「ウチの支社にも、また新車が一本増えたか。」

 新車が増えるということは、古い車両が廃車になるということである。経年
 劣化による故障など、古い車両は厄介者。それが新しい車両に置き換えら
 れるというのは嬉しいことだ。お客さまにも新しい車両の方が喜ばれる。
 ほくそ笑む私に相槌を打ちながらも、鉄道マニアの彼は心から喜んでいる
 感じではなかった。本音は明かさないが、鉄道マニアとして、往年の車両
 がなくなるのを惜しんでいるのかもしれない。

 「それでは発車になります」

 本社の人が試験開始を宣言する。メーカーの人は機器に向かって各種の計測
 を開始する。本日の主役はこのメーカーの人たちである。鉄道会社側も、
 車掌や運転士はこの珍しい乗務に身を引き締めており、緊張感に包まれて
 車両は動き始めた。

 「1ノッチ・・・、2ノッチ・・・、3ノッチ」

 車両は順調に加速する。途中駅のホームには、熱心な鉄道ファンがカメラ
 を向けている。
 マニア社員の彼も、新車の走行試験に添乗できて、まんざらでもない顔だ。

 「あれ?」

 そんな彼が、急に怪訝な表情になった。

 「どうかしましたか?」

 私が尋ねると彼はだんだんと興奮し、

 「た、大変です。この車両、ホウテンです!」

 と騒ぎ始めた。
 (ホウテン?漢字で書くと「方転」だっけ?車両の向きが上りと下りで逆
 になっているってことだよな・・・。)
 鉄道車両は上から見ても、上下左右対称で、向きは関係ないように思える
 が、機器の配置などは非対称であり、上りと下りの向きが決まっている。
 車両担当の私でも、車両の床下の機器配置やパンタグラフの位置を見ない
 と分からないが、マニアの彼は車内を見ただけで車両の向きが逆になって
 いることに気づいた。

 結局これは、笑い話のようなメーカーのミス。
 「さすがマニア!」
 このミスのおかげで、白眼視されがちだった彼は、マニアであるが故の功名
 を上げることができた。

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 鉄道業界の舞台裏         2009.10.29    第0083号

 「マニア社員の活躍」

 発行者: 鉄道業界舞台裏の目撃者 
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 発行 : まぐまぐ
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posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 08:14 | Comment(1) | TrackBack(0) | 鉄道会社の社内事情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする