民営化して良くなりました

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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民営化して良くなりました


「JRに就職を希望しております!」

ある若者が、年配のJR社員に就職の相談を持ちかけた。
一つにはコネになってくれないかという期待があり、一つには会社の内実をヒヤリングしたいという意図がある。
JRへ就職を希望していることに、賛同してくれるか、やめておいた方がいいよと言われるか。

「うん、それはいいね。人気があるから就職は難しいけど、良い選択だよ。」

そうか、やっぱり俺の希望は間違っていないか!人気があって狭き門になるのはつらいけど、それだけ良い会社ということか。
若者の顔が輝く。

「国鉄時代はひどかったけどね。JRなら勧められるよ。」

国鉄が民営化してから20年が経つ。それでも国鉄改革、分割民営化は歴史的な成功体験なので、JRの原点として常に引き合いに出される。今もJRのトップは何らかの形で国鉄改革に貢献した人であり、一線を退いた「三人組」
と呼ばれる国鉄内部の改革者なども、いまだに国鉄改革の本を執筆している。

トップに近い人ほど、「国鉄はひどかった」「JRになって良くなった」と口にするが、国鉄はそれほどひどく、JRはそれほど良いのか。
我々もちょっと考えてみよう。


その1 「すさんだ現場」

ある車両メンテナンスの現場。時は、国鉄時代の中でも労組全盛の頃。国鉄の長い歴史の中でも、「生産性向上運動(マル生運動)」が頓挫した後の70年代は、労組が特に強かったのだ。

「本日はゼッケン○○番の車両がMM(主電動機:いわゆる車両を動かすモーター)故障で大修庫に入っていますので、作業願います。」

大勢の現場社員を前に、現場管理者の助役が朝のミーティングで指示する。

「作業者が足りねぇーよ。経験が浅い奴を人数に入れるなよ。」

指示されたとおりに黙って動くことはない。必ず文句が出る。

「MM故障は経験していない人はいないはずです。経験が浅い人はベテランや主任が補佐してください。」

「それじゃ危険なんだよ!みんなそれぞれ自分の作業があるんだ。人の手助けなんかやってられないんだよ。」

「そうだ、助役が横について指導しろよ!」

「安全に支障がある」と、それらしい理由を言っているが、そもそも会社(当局)や管理者に敵対意識を持っているので、建設的なことを言っているわけではない。

「未経験ではないのでそれなりにできるはずです…。」

助役も気力勝負。相手の議論に飲まれたら、精神的に追い込まれる。

「どこのMMから見ればいいんだ?8つもあるんだぞ。」
「そもそも当局が採用している消耗品が悪いから壊れるんじゃないのか?」
「今日中に終わらなかったらどうするんだ?台車と車体は戻さなくてもいいんだな?」

こんなやり取りをしているだけで、どんどんと時間が過ぎていく。
矢面に立っている管理者もうんざり顔だ。現に故障した車両が入ってきているのである。四の五の言う前に修繕したくなるのがエンジニアの心意気じゃないのか。
しかし、うんざりしても、管理者は労働闘士に揚げ足を取られるような発言をしてはいけない。それがまた面倒の種になるからだ。

「安全、安全って…、壊れた車両を直さなければ駄目でしょ。」

思わず揚げ足をとられるように、「安全」の後の言葉を濁してしまう。濁したところに相手は勝ってに解釈を加えるのだ。

「安全はどうだっていいってことだな!助役!」

こういう言質を取られ、組合上層部に上げられると、後ろ盾であるはずの管理局(支社)までが、現場で戦う管理者のはしごを外す。

業務遂行を妨害するような行為が現場であったとしても、「現場管理者の指導方法にも問題があった」ということで、組合上層部と会社の管理部門が「双方に問題があった」ということで、勝手に背後で問題を収めてしまう。
繰り返しになるが、結論として、「現場の作業者に、業務遂行を妨害するような問題行為があったとしても、指導すべき管理者が、安全を軽視するかのような発言をするのは問題だから、今回はその当該社員の処罰は行わない」ということになるのだ。
こんな結末では、職場の規律は崩れたままである。
業務に熱心な管理者や現場の人々にとって、建設的でない労働闘争は、不毛でやる気をそがれるだけだ。

そんな国鉄時代に比べれば、確かに「JRになって良くなった」わけである。民営化しても少しも変わっていなかったら、許されないだろう。
だが、比べる対象がひどすぎるわけで、これから入社しようとする人が「JRになって良くなった」と聞いて、胸を撫で下ろすのは茶番である。
どれくらい変わったのか、と考えても、その基準としているところが異常なので、あまり意味がない。

国鉄は20年前に消滅したのである。そんなところと比較しても、他業界、他会社と比較しなければ、有意な就職活動にならない。



 おすすめ本



今回は、国鉄内部の改革派で、国鉄改革に尽力し、JRのトップにもなった、葛西 敬之氏の近著。
国鉄改革の真実―「宮廷革命」と「啓蒙運動」




posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 22:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 鉄道関連の本と音楽とDVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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