「鉄道自殺を図った遺体の形状は、大まかに分類すると二種類に分けられる。「陥没系」と「切断系」である。」(「鉄道員裏物語」 大井 良 彩図社)
この私鉄職員が書いた本には、著者の人身事故体験が20ページ以上に渡って書かれている。
人身事故は鉄道現場の裏話の代表である。
遺体の形状分析を冷静に論じた後、核心の人身事故の処理体験と続く。
著者は若手の駅員。運悪く、その駅の近くで人身事故が発生し、駅の助役とともに現場に急行する。
「頭部の半分を失い、体は不自然に捻じ曲がり、右足からは皮膚を突き破って数本の骨らしきものが飛び出している。人形のように生気は微塵たりとも感じられない。」(同書)
現場の鉄道員が書いた本はいくつかあるが、この本は最近出版されたので入手がしやすく、描写や文章の展開がうまい。
(※この記事は、2008年12月に公開しました。)
「恐怖心がないわけではなかったが、それよりも業務だという責任感が体を動かした。」(同書)
読者を主人公(著者)に感情移入させながら、生々しい現場をしっかりと描写している。まるで小説のようである。すさまじい状況ながらも、冷静に対応しようと頑張る著者の視点で描かれているので、読者も夢中で読み進められる。
人身事故の体験以外は、場面展開の乏しくてストーリー性が弱かったり、現場駅員の視点だけで多角的でなかったり、ちょっと淡々としたエピソード集のようになってしまっている。逆に、それだけ人身事故は現場における最大の事件なのだ。
人身事故になると、現場の運転士、駅員、保線はグロテスクな場面に遭遇し、鉄道の外からは警察が登場し、車掌、ホーム担当、改札は溢れる客の対応で大わらわ。
電車が止まるとともに、乗客は戸惑う人、怒る人、事故に興味をもつ人など、今まで無表情だった一群が、大いに乱れ始める。
現場から離れたところでも、指令、乗務員区などは乱れるダイヤに巻き込まれながら活況を呈する。
そんな中、自殺した仏様は、様々な苦難があった人生に別れを告げ、無残な体を残しながらも静かに旅立つ。
役者は全員舞台に上がり、それぞれの役割で、色々な動きをする。それも、すべて一点の人身事故から広がるのである。
自殺した人、ショックで真っ青な顔をする運転士、そんな現場には無関心で、自分の予定を狂わされて怒る乗客、腕の見せ所と張り切る乗務員区の助役と指令。
それぞれの人生が露骨に見える瞬間であり、それでもそれらの人生は交錯せず、各々のベクトルを持つ。
人身事故から、現代の都市社会の一面が見える。
人身事故に遭った車両を洗う話(拙著「鉄道業界のウラ話」の紹介)
私は率先して車両の下にもぐり、調査を始めた。怖気づかずに床下機器にライトを当てる。 「うっ、くさい!」 視覚にばかり注意を払っていたが、最初に強烈な刺激を受けたのは嗅覚だった。 (確かにこれはマグロをやった車両だ) しかし、人間の体というのは、こんなにも強烈なにおいがするものなのか。 皮膚に覆われているから普段はにおわないが、内臓というのは強烈にくさい。 呼吸を抑えながら、ライトを床下機器に向けて点検すると、運転台の下の機器はきれいだったが、その後方の台車は血に染まっていた。 「うわぁ。台車のあたり、かなり汚れています!」 「こりゃ、ひでぇーな」 後から車両の下にもぐってきたベテランも、声を上げた。
「
社名は絶対明かせない 鉄道業界のウラ話」より
2010年3月単行本
 
| 2012年4月文庫本化(650円)
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関連コンテンツ
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人身事故(1) ○
人身事故(2) ○
人身事故(3) ○ 人身事故(4)
posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 00:02
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人身事故・鉄道雑学
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昨年の年末、出張先からの帰省の為、新幹線で東京へ向かう際、先行の新幹線で人身事故が発生しました。「線路内に立ち入ったお客様と先行の列車が『ショウゲキ』した為、運転を見合わせます」といった旨のアナウンスが流れました。
年末ということもあり、車内には、サラリーマン、家族連れ、学生、カップル等のいろいろな属性の人がいました。列車の遅れにイライラする人、動じない人、神妙な面持ちの人、人身事故に対する感情的な反応も、様々でした。
事故に対する私の初期の反応は、車内アナウンスに対してでした。「衝突」と聞き間違えたのか、「衝撃」の誤用なのか、「ショウゲキ」とは、業界用語なのか、少し混乱と少し苛立ちでアナウンスを聞いていました。不謹慎ではありますが、早く帰省したい思いがあり、運転再開のメドを知りたかったのでしょう。
事故だったのか、自殺を試みたのかは、不明ですが、現場検証に1時間ほどかかっていたので、きっと助からなかったのでしょう。私の乗っていた列車は、名古屋駅の手前で1時間程度停車し、東京には2時間弱遅れて到着しました。
日本が誇るシンカンセンの人身事故の舞台裏では、様々な人が、様々な思いで、様々な役割をしっかり果たしていたのでしょう。そして今も、誰かがどこかで、事故防止のためのネジを巻いているのでしょう。
運輸業界とは別の業界に身を置いていますが、同じ第三次産業に従事する者として、サービスとは何かを考えさせられました。模索中ですが、自分の役割をしっかりと果たしていきたいです。
人身事故は、現代の人間が人様の死を身近に感じられる数少ない機会だと思います。死は、生きる人に何かを考えさせる力を持っているのでしょうか。
最後になりますが、『鉄道業界の舞台裏』の益々の発展を期待しています!!
書き込み、ご声援ありがとうございます!!
新幹線の人身事故ですか…。子供が憧れる乗り物と自殺。何とも言えなくなりますね。
新幹線に飛び込んで自殺したJR社員もいましたが。
また、書き込んでください。お待ちしています!
快特列車が駅を通過するときに、人がホーム中間あたりから飛び降りて2100形列車の窓と衝突。
その後、はねられた人は列車のスカートと地面の間に挟まり、数メートル引きずられた後、車輪に巻き込まれました。
列車は止まりきれずにホームを通過。
線路上には大量の血液と挽き肉のような物体、胴体と切断された手足があり、頭は車輪に潰されて無くなっていました。
列車は、20分ほどで運転を再開しましたが、
線路脇では現場検証が続いていました。
この光景を見て、人身事故の現実がなんとなく分かりました。
今でも、人身事故の記事を見ると、この光景が思い浮かびます。
私鉄やJR、いや、世界中の鉄道からの飛び込みをやめてほしい!!
他の人も大迷惑になる!!自殺しても何にも解決しない、神経科の医師に相談すればいい!!
前から2両目に乗っていたのですが、いきなりいままでに聞いたことのない長い汽笛が何度も続いて、何かが今から起こるのを示唆するかのようでした。すると案の定、物凄い音と共に、機械がクラッシュするような何か電車が踏みつけたような或いは巻き込んだような衝撃で電車が止まりました。
私は電車が揺れた瞬間耳を塞ぎ、ふとTVの中で見たJR福知山線のあの事故のことを思い出し、心の中で「どうか助けて!」と叫びました。
一瞬の出来事でしたが周りの人たちも不安げな表情でアナウンスを待ちました。すぐに乗務員が「ただいま何かに接触しました。確認 いたします!」とアナウンスが届き、10〜15分ぐらいでしょうか?意外にも早い段階で人身事故の処理を終えた乗務員から次のアナウンスがありました。
発車します、とかなり動揺した声でしたが、高槻で下車したあと、駅員さんに聞くと、事故現場付近は川で踏切は遠く、当人はどこの踏切りからか進入して、しばらく線路内を移動したと考えられるとのことでした。
私の父親はJRのベテラン運転士。何度も表彰されているのに仕事の話は滅多にしない父親です。きっとこのサイトに投稿されている運 転士さんのような経験があるのかもしれませんね。怖くて今夜は気になって眠れそうにないのですが、サイトを見させていただいて、もっともっと辛い現場で頑張っているひとがいるんだと思うと、気が少し紛れました。
ご冥福をお祈りすると共に、人身事故や電車事故が起こらない事を願います。
怖い体験をされましたね・・・。
「物凄い音」や「衝撃」を感じたのですか。
それも、ホームや踏切と離れたところでの人身事故とは、当人の死まで
軌跡を考えてしまいますね。
やるせない思いになりますが、ご冥福をお祈りしましょう。
それでも、慣れてしまったのか、皆さん、整然と行動されていました。
自殺の原因、イジメや、失業への根本的対策とともに、鉄道会社には保線につとめてもらい、また貴書からも、鉄道自殺の惨さを学ぶべきだと思います。
偶然このような事故に遭遇した人には、恐怖のあまり嘔吐する者、泣き出す者、卒倒してしまう者、怖さが忘れられずPTSDになってしまう者もいるでしょう。
車輌は、急ブレーキによるブレーキ破損、車内では乗客が転倒してけが、ホームでこのようなことが起きると、跳ね飛ばされた人体、もしくはその一部がホームで列車待ちしていた人に当たってけがなど様々な損害が発生するはずです。
たかが一人の身勝手な行動によって、多数の人が被害に遭う犯罪に等しい行為です。
鉄道会社は、乗客からの対価を得て成り立っています。(一部にキセルするようなバカもいますが)
もっと、れっきとした態度で臨むべきです。
もう27・8年も前になりますが、部下と二人で広島へ東京駅から新幹線。
熱海駅通過後にストレスの無い減速〜停止。
「こんなところで止まるなんて飛び込みかもね」の会話。
奇しくも当たっており、暫くして、ゲ!そういう説明するの?という車掌アナウンス。
「熱海駅にて飛び込み事故がありました。只今先頭に張り付いている人間を剥がしております。」
マジでこういうアナウンスだったんです。
処理後発車した列車は三島(車輛基地)で停車し、フロントパーツを交換して出発しました。
自由席(2輛目)に乗車していたので、目と鼻の先で起こり、目撃した訳ではなくも凄惨な様子の想像は難しくなく不快感をひきずる 旅となりました。
やはり車掌も動転していたのでしょうか。
死にきれず、車体下で『イタイイタイ!』と、
叫ぶ人もいたそうです…
私は、とある鉄道検車区で働いています。
先日、人身事故の車両が入庫してきたときは、
しばらくカラスが沢山いて、うるさかったです。
下回りも、血痕が。。。
整備後、何事もないように走行しているのが、
不思議というか、複雑な気持ちです・・・・
だったら暴走族に車で突っ込むとかすれば英雄扱い。 みんなの嫌う犯罪者を減らし治安に貢献
間違いなく英雄扱いになる
人身事故もなくなるし こっちのほうがいいでしょ
「怖いからやめて!!!」って叫びたくなってしまいます。
線路内に飛び込んで自殺する奴はどっちかというと社会に対して恨みを持っているのでは?
だから暴走族と刺し違えて英雄扱いされようなんて微塵も思わないはず。