鉄道電話(JR電話)とNTTの電話(1)

 「明暗分かれる鉄道ビジネス」

佐藤 充 4年ぶりの書き下ろし!
沿線に住民がいる限り、あるいは東京~大阪を移動する人がいる限り、JR東日本やJR東海には金が落ちる。その金額は2〜3兆円にもなり、まさに「金のなり木だ」。一方、需要の少ないところではいかに身を切る努力をしても経営が成り立たない。
JR各社と大手私鉄の鉄道ビジネスを俯瞰的に見渡しながら、儲けの仕組みを解き明かす。
2019年9月30日発売
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鉄道電話(JR電話)とNTTの電話(1)

言うまでもないことだが、鉄道会社は職場が非常に多い。
何より駅の数が膨大である。

JRの内部では、国鉄以来、鉄道電話(通称:鉄電、民営化後の正式名称はJR電話?)という専用の電話網が整備されている。
一般の我々の常識では、固定電話といえばNTTであり、東京は03、大阪は06で始まる電話しかない。しかし、鉄道の世界では、東京051、大阪071で始まる別の電話網があるのだ。

「おい、○○駅の駅長室の番号は何番だ?」

と聞かれた場合、通常は鉄道電話の番号を聞いているのである。
NTTの電話番号を聞く場合は、

「おい、○○駅のNTTの番号は何番だ?」

と、わざわざ「NTTの番号」と付け加えないと伝わらない。

鉄電は内線のように、番号が多く割り振られており、駅で言えば改札、出札、事務室など、社員が働くあらゆる現場にそれぞれ番号が割り当てられている。支社のような非現業であれば、一つの「島」に複数台置いているので、担当者直通である。

そのため、社内の業務用の電話連絡は、通常は鉄電を利用する。
巨大で、時間に厳格な鉄道というシステムは、多くの現場、多くの人によって支えられている。そのため、各現場とすぐに連絡がとれる鉄電は、必須の業務ツールであり、極論すれば、鉄電によって業務が成り立っているともいえる。


さて、鉄電の話は置いておき、鉄道の世界では逆にマイナーな業務ツールとなっている、NTTの電話を見てみよう。

当然のことながら、数は少ないものの、NTTの電話回線も各職場に引かれている。
社員であれば、社外から職場に連絡する場合に必要であるし、外部の企業と連絡を取る場合にも必要になる。
鉄道電話と違い、NTTの電話網は広く一般に広がっているため、一般のお客さまからもかかってくることがある。
私が支社の運輸部に勤務しているときにも、色々な電話がNTT電話でかかってきた。

プルルル、プルルル。

私のそばの電話機が鳴った。呼び出し音も鉄電とは異なるので、NTTの電話だということがすぐに分かる。
(電話機自体は共通で、鉄電でもNTTでも両方使える。)
若手社員の私は率先して、電話機の「NTT」のボタンを押して受話器をとった。

「はい、○○鉄道△△支社運輸部です。」

「・・・」

無言電話だろうか。反応がない。

「もしもし?もしもし?」

「・・・」

いたずらだろうか。

「もしもし?」

「・・・あのー。」

やっと声が聞こえてきた。無言電話ではないようだ。

「はい」

「僕、マニアなんですが・・・。」

(マニアさんですか。それで、どういうご用件かな?)
忙しいところに、長くなりそうな電話を取ってしまった。若手社員なので電話には積極的に出なくてはいけないのだが、貧乏くじを引いたかもしれない。
とりあえず、こちらは黙ってお話を聞くことにした。

「○○線の△△系車両、今は工場に入っていますよね。」

(は?)

鉄道の車両は、数年おきに工場での修繕が入る。しかし、ローカル線の特定の車両の予定など、運輸部社員の、しかも車両担当の私ですら知らない。というか、運輸部でもそんなことすぐに分かる人はほとんどいない。
現場に問い合わせないと分からない、レベルの細かい話だ。
「今は工場に入っていますよね。」
と、あたかも常識のように聞かれても、そんなこと把握していない。

良く知らないが、話を合わせて、

「あぁ、たしかそうだったかも知れませんね・・・」

と、適当に受け答えた。そういえば、この△△系は全国で廃車が進み、現在ではこのローカル線でしか走っていないらしい。そのため、鉄道マニアの方々には貴重な存在なのだとか。
乗客が少なくて困っている路線だが、わざわざ遠くから乗りに来るマニアの人もいるというのだから、私などにしてみれば不思議である。

「工場からの出場の予定を聞きたいのですが・・・。」

と質問されてしまった。最初に長い沈黙があったが、要はこの車両の動向が気がかりらしい。工場から出てこないで、廃車にでもされるのではないかと心配しているのだろうか。
話すテンポも極端にゆっくりで、用件を聞くのにも苦労した。

しかし、これはお手上げだ。困ったものである。そうかといって、鉄道を愛する人の期待を裏切るわけにもいかず、周りの人に助けを求めることにした。

「ちょっとお待ちください。」

私は電話を保留にすると、ちょっと恥ずかしいが立ち上がり、

「すいませーーん。マニアのお客さまから、△△系についてのお問い合わせでーす。」

と叫ぶ。
こういう電話はたまにあり、皆慣れてはいる。しかし、我関せずと見向きもしない人、「変な電話を取っちゃったね」と、ニヤニヤ笑っている人、そんな人ばかりで、ほとんどの人は助けにならない。これでは私が困る。
幸い、

「あいよー、俺が受ける」

と、年配の先輩が引き取ってくれた。マニアの方の扱いも、長年やっていて慣れているのだろう。職場にこういう人がいてくれると、本当に助かるのである。

車両故障を担当している私としては、このような骨董品のような形式が残ってしまうのは、正直に言えば嬉しくない。
故障しないで元気に走り続けてくれれば良いが、故障すると、修繕するにも代替品の調達に時間がかかるし、原因調査、対策をまとめるにしても、私自身がこの車両を良く知らない。
航空業界にしても、格安航空の会社などは、飛行機の形式を統一している。
乗務員の訓練、車両のメンテナンスでも、形式が少ない方が効率的であるし、乗務員や車両メンテナンスの拠点も最小限にできる。

それでも、私の在任中は元気に走り続けてくれた。その後も長年廃車にならず、マニアの方々にも喜ばれて何よりである。故障担当の私が苦労させられることもなく、マニアの方々も喜んだのなら、もともと赤字路線であるし、非効率ながらも生き残ってくれて良かったのだろう。


NTTの電話は、予想もつかない電話がかかってくる。
次回以降も、鉄道会社にかかってくる、NTT電話にまつわる話をご紹介していこう。



posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 18:23 | Comment(2) | TrackBack(0) | 鉄道会社の裏事情 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ども!私のブログにコメントいただきありがとうございます。

メルマが新たに発行されるんですか!今のメルマガも600人以上購読者がいらっしゃるようでとても羨ましいです。

本も出していらっしゃいますし、一歩先行く目標ですので水先案内人よろしくお願いします!
Posted by こば at 2010年02月26日 00:44
こばさん

本はまだ出ていないですよ、告知前です(笑)
Posted by 鉄道業界の舞台裏 at 2010年02月26日 09:19
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