人身事故(2)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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人身事故(2)

前回は、人身事故の業界隠語を紹介した。
赤身なのが共通しているからか、遺体や事故そのものを「マグロ」と呼ぶ。


ホームの端、虚ろな目でレールを見つめる。

異常に疲れ、何もできない。
先のことを考えると滅入る。いや、暗澹となるだけで考えることすらできない。

逃げたいな…。

力強く駅に近づいてくる列車。その力強さに吸い込まれたら、楽になれるだろうか。


こういう人が本当に列車に吸い込まれると、人身事故の発生である。

残された家族、棄て去ってしまった自分の未来。
困難や絶望も、時間がたてば思い出になったかもしれないが、三途の川は戻れない。

残されたのは家族だけではない。自分の体もそうである。

車両に跳ね飛ばされてしまえば幸運。骨は折れ、手足がグニャリとすることはあるだろうが、それでも美しい姿で葬儀に出れる。

最悪なのは、車両の下に入ってしまった体である。
車輪や車軸に巻き込まれて肉片になってしまう。
内臓が出ると、人間の体というのはとてもくさい。独特なにおいがある。

筆者がこのにおいを知ってしまった後、映画で人が殺されるシーンを見ると、鼻がにおいを思い出して困った。
映画では、ヒーローが格好よく悪人を殺していくが、格好いいはずがない。
道義的なこと以前に、内臓が出ると悪臭が漂うのだ。


話が逸れた。人身事故の現場に戻ろう。

強烈なにおい、周辺に撒き散ってしまった肉片。そして、脂分が付くのか、
変に光る車両。
その中に、長い髪の毛が何本か混じっているのに気づいたとき、仏様が女だったことを知る。

鉄道マンにとっては、常に想定し、人生で何度か体験する事態ではあるが、慣れているような人はいない。
においを吸い込まないように近づき、手袋を使って「救出」を行う。「救出」というのは、死んでいるかどうかは医者が判断するとのことで、鉄道マンが判断することではないからだ。

呼ばれて駆けつける警察は、鉄道よりずっと慣れている。転がっている頭部を頭髪をつかんで「救出」する。
拾い漏れがないか確認し、見つからなければ見つかるまで探すのだ。

肉片になってしまった部分はさすがに集められない。血とともに洗い流されることになる。
軌道上では保線社員が、車両に撒きついたものは車庫で車両担当が行う。

そこへ、においにつられてカラスが集まる。
社員の清掃が終わると、カラスが最後の掃除を行う。


こんな無残な死に方をする人は、現世でどれだけ苦しんだのだろう。
痛ましい限りである。


続く




    人身事故に遭った車両を洗う話(拙著「鉄道業界のウラ話」の紹介)



私は率先して車両の下にもぐり、調査を始めた。怖気づかずに床下機器にライトを当てる。 「うっ、くさい!」 視覚にばかり注意を払っていたが、最初に強烈な刺激を受けたのは嗅覚だった。 (確かにこれはマグロをやった車両だ) しかし、人間の体というのは、こんなにも強烈なにおいがするものなのか。 皮膚に覆われているから普段はにおわないが、内臓というのは強烈にくさい。 呼吸を抑えながら、ライトを床下機器に向けて点検すると、運転台の下の機器はきれいだったが、その後方の台車は血に染まっていた。 「うわぁ。台車のあたり、かなり汚れています!」 「こりゃ、ひでぇーな」 後から車両の下にもぐってきたベテランも、声を上げた。


2010年3月単行本

2012年4月文庫本化(650円)


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  ○ 人身事故(1)

  ○ 人身事故(2)

  ○ 人身事故(3)

  ○ 人身事故(4)


posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 22:18 | Comment(2) | TrackBack(0) | 人身事故・鉄道雑学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「マグロ」というのは、輪切りの状態がマグロに似ているからです。
Posted by ガクケン at 2010年11月19日 04:30
息子の幼馴染もつい先日自殺した 親としてきずくことができただろか

Posted by at 2012年02月16日 23:55
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