信楽高原鐵道事故(世界陶芸祭)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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信楽高原鐵道事故(世界陶芸祭)

前回までのあらすじ)
信楽高原鐵道(通称:SKR)の路線は、14.7kmしかない。ダイヤも、1列車が往復し続けるだけの単純なもの。そこに、「世界陶芸祭」という大イベントが開催されることになり、SKRもその大量輸送の一翼を担うことになった。


(想定の輸送人員が約9万人か・・・)

SKR社内では、期待と不安のため息が漏れていた。
世界陶芸祭の期間は、平成3年4月20日から5月26日までのわずか37日間。つまり、1日あたり約2,400人、週末はさらに人数が増えることが見込まれた。

これはとんでもない数字である。
この路線の乗降客数は、一日あたり1,500人程度。一気に3倍近くに膨れ上がってしまうのだ。

(かなり大幅な増収になるが・・・)

単純計算で約4,000万円の増収見込み。存廃が問われ続けた鉄道路線にとって、このイベントは大きなチャンスである。イベントによる収入増だけでなく、イベントが終わっても「陶芸の森」という観光スポットが残る。地元にとってもSKRにとっても、期待は大きかった。

しかし、喜んでばかりもいられない。この輸送人員は小さなSKRが担える数字ではない。
信楽駅のホームの長さは3両編成までしか対応していないし、路線は単線で、途中に行き違いができるところもない。3両編成が往復し続けたとしても、休日には輸送力が足りなくなるのである。

そこでSKRは、列車が行き違える小野谷信号場を新設し、大きな設備増強を決断した。
今まで、途中に信号もなかった路線で、信号システムも大幅な変更になる。
小野谷信号場(跡)
しかし、輸送力不足の問題は、行き違い設備を作るだけでは解決しない。ダイヤを増やせば、乗務員も車両も増やさなければならない。しかし、国鉄時代と違って、SKRだけではどうしようもできないので、JR西日本と会社間の契約を結び、車両と乗務員を借り入れることにした。

別会社となった、JR西日本とSKR。車両と乗務員の借り入れについては、こうして線引きがはっきりする。JR西日本の車両や乗務員が乗り入れれば、SKRには代金を払う債務が発生する。

一方で、線引きが不明解なところもあった。信号工事のうち、貴生川駅から小野谷信号場間はJR西日本が受託して行ったのだ。
SKRの信号設備を、他の鉄道会社が工事するのである。(これが、のちの正面衝突事故の伏線となる。)常識的に考えれば、ありえない委受託だ。

不可解ではあるが、一応理由がある。SKRは貴生川駅の管理をJR西日本に委託しており、貴生川の出発信号機も、JR西日本が扱うことになったのだ。
しかし、業務の委託が、会社の境界線を曖昧にさせる。
貴生川駅から小野谷信号所の運行管理は、当然ながらSKR管轄である。しかし当事者たちは、JR西日本が管理するように感じる。

このような雰囲気の中で、JR西日本が貴生川駅から小野谷信号場、SKRが小野谷信号場から信楽駅と、それぞれが工事を行うことになったが、SKRが全体をしっかり把握して管理していたわけではない。その証拠に、お互い無断で追加の改修工事を行ってしまう。

特にJR西日本は、「方向優先テコ」を自社の亀山CTCセンター内に設置し、SKRの小野谷信号場の信号を制御できるようにしてしまった。これは、相手の懐の中に手を突っ込むような設備だが、この追加工事をSKRに正確に伝えていない。

このような、全体を誰も管理していない工事施工により、ある条件になると、信楽駅の出発信号機が青に切り替わらないという、矛盾が内包されてしまうのである。

続く




信楽高原鐡道事故については「鉄道の裏面史」で書籍化されました


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posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 08:53 | Comment(3) | TrackBack(0) | 信楽高原鐵道事故 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ありきたりのコメントで申し訳ないのですが、
どこの世界も色々あるんですね。7
結局、この件で利益(というと差しさわりがありますが)を一番得るのは、誰なんでしょうか?

世界陶芸祭の主催者でしょうか、鉄道会社の株主でしょうか、それとも利益誘導型の地元の政治家でしょうか・・・

ふとそんなことを考えてしまいました。
Posted by 文月。 at 2011年09月16日 05:02
文月。さん

コメントありがとうございます。

地元自治体の期待が大きかったと思います。
県も町も。

世界陶芸祭の実行委員も、鉄道会社(信楽高原鐡道)の株主も、県と町が主体でした。
Posted by 佐藤充(管理人) at 2011年09月16日 23:45
高原鉄道事故は大変胸の痛む事故でした。
某関西大手私鉄の重役さんが亡くなられて
追悼禄に重役さんの令嬢様が事故が起これば
大きなもになります、と記述されています。
職員一人一人が安全を心掛けて職務に励んで
ほしものです。
JRに体質も変わらなければならないのですが・・・
Posted by 安全運行 at 2011年10月19日 19:14
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