辞める理由

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売

辞める理由

読者から、

「鉄道会社って辞める人が多いのですか?」

という質問をたまに受ける。

人事統計データを見ていないので正確なことはいえないが、大卒総合職で、入社5年までで2割弱が辞めているのではないだろうか。

日本では、大学新卒が3年で3割が退職するそうなので、それから比較すればかなり少ない。
ただ、鉄道の離職率をどう判断するかは、難しいだろう。

そもそも鉄道に入社するような人は、人生に対して保守的な人である。
IT系ベンチャー企業に入社する人、外資系企業に入社する人、コンサルティング会社に入社するような人とは根本的に性質が異なる。
後者は自分のキャリアパスに主眼を置き、会社は成長するための土台と考え、会社への執着が薄い。
前者は、安定性も含め、会社に魅力を感じて集まっている人たちである。
普通ならば会社を辞めることはない。

大量採用した後に大量退職させ、人材をふるいにかけるような大企業もある中、それらを十把一絡げに平均すれば、大学新卒の離職率は3年で3割。
鉄道の離職率を、この数字と比較するだけでは実態を見失う。


大卒総合職が鉄道を去る理由はなんだろう。それは、以下の業界特有の事情が大きい。

 1.異常な力をもつ労働組合と会社、その巨大な二本の柱が落とす不合理な暗い影。
 2.先端企業を標榜するが、頭脳を使う場面が乏しく、やりがいを見失う仕事内容。
 3.内向きの会社で、社内の政治性、人間的なストレスに疲弊する

この3つは今までにも十分書いているので詳細は省くが、これらが離職率を高めているのが実態だ。


しかし、鉄道に昔からいる社員には、身近で離職していく若者が理解できない。
鉄道の実情を若者より良く知り、鉄道が世間で言われるような働きやすいところではないことを知り抜いているはずのベテランが、若者の退職を理解でない。

筆者の場合も

「実は、転職することにしたんですよ。」

と職場で打ち明けたとき、

「転勤するの?」

「いえ、会社を辞めるんですよ。」

「出向?」

「そうではなくて・・・」

と理解されなくて困ったことが何度かあった。

この業界特有の3つの事情にしても、何も最近始まったことではない。むしろ、1、3については、昔の方がもっとひどい。現場が荒廃し、秩序が失われていた時代もあったぐらいだ。
しかし、昔は「会社を辞める人」というのはほとんどいなかった。
鉄道に入ったまじめな青年が、荒廃した職場に幻滅し、悩んだとしても、「辞める」という選択肢はなかった。

この辺について、『若者はなぜ3年で辞めるのか』で城繁幸氏が論じている。
「日本における転職市場は、一九九〇年代後半から一〇倍近くに成長した」
(『若者はなぜ3年で辞めるのか』)

どこの会社も年功序列、新卒一括採用以外の雇用がなかったバブル崩壊以前、つまり80年代以前は、会社を辞めても、他の会社が雇ってくれるわけでもなく、転職という選択肢はなかった。

現在は、「鉄道のキャリアが転職に役立たない」という苦労はあるが、若ければ転職は難しくない。
「適職診断の解説 転職・独立」
http://railman.seesaa.net/article/21678640.html

転職の仲介会社にエントリー登録するだけで、次々求人を紹介される。その部分だけを見れば、働く側は企業を選ぶ自由を手に入れ、働く環境が良くない会社は人材を確保できなくなるという、「労働市場」が発生し、自由化された。・・・いいことばかりではないのだが。)

つまり、ここ十年で初めて、鉄道業界の負の側面が人材の流出という事態を招き始めたのだ。

現在起きている人材の流出を始め、鉄道の要員計画の諸問題については、次回以降考えていこう。



   おすすめ本



 
 

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 22:32 | Comment(14) | TrackBack(0) | 鉄道会社への就職・その他雑記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
鉄道業界舞台裏の目撃者様

こんにちわ。最近、某JR会社で、駅中に、あちらこちらと、ポスターが貼ってあるのを、よく見かけます。その内容は、駅員や、みどりの窓口接客係として、正社員ではなく、非正社員→契約社員或いは、派遣・パート社員といった具合に、募集しているのを目にします。正直驚きました。今や、景気がよくなってきたとはいえ、未だに正式雇用が難しい世の中で、とうとう、JRにも、その波が押し寄せてきたかと思いました。手軽に、安く雇用できる非正社員を職員として募集しているのか、もしくは、少子化で、人手が足りなくてそうせざる得ないのか、分かりませんが、どちらにしても、緊急時の時、果たして、機能していけるのかどうなのか、これからの鉄道会社の真意が問われると思いますね。
Posted by みい at 2006年11月20日 02:18
みいさん

こんにちわ。そうですね、鉄道会社が非正規社員を募集している
ポスターをよく見かけますよね。鉄道も業務のアウトソーシングに
力をいれ、コストダウンを進めようとしています。メンテナンス業務
のように、むしろ目に見えないところで外注化が進んでいます。
コストは下がっても、品質の低下など、じわりじわりと会社の
力が落ちていくのではないかと気がかりです。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2006年11月25日 21:44
まあ、駅員なんて誰でもできる仕事だし、別に正社員じゃなくても、っていうことでしょう。そのうち、コンビニエンスストアみたいに、正社員の駅長+多数のバイト、っていう体制になるかもしれませんね。特に、運転非取扱駅とかはそうなるでしょう。

残念ながら、一部のダメ社員よりも、ちょっと気の利いたバイトのほうがよっぽど使える、というのが現実だったりするのです。
Posted by 現職 at 2006年11月29日 07:35
こういうバイトだとね。妙にモチベーション高い奴も集まったりするからねえ。
Posted by at 2007年01月08日 22:37
はじめまして!楽しくホームページを拝読しております。
私もかつて某旅客鉄道会社に技術系総合職(土木)で5年間仕事をしていました。
土木採用の人間だと、最初に保線区(保線技術センター)に配属の後、2年目に建設工事部(新規プロジェクト)か設備部(メンテナンス)に別れますが、ほとんどの新人が建設工事部に行きたがります。
個人的な意見として、旧国鉄の工事局採用と管理局採用のおっちゃんの個性の差が大きく、保線区のおっちゃん達との仕事は勉強になるのですが、長く現場にいると技術を追求する真面目な人は、おっちゃんの考えに染まる傾向にあり、会社が望む管理者とは程遠い社員になる可能性があり、上から睨まれることになります。(出世できない)
3〜4年目ぐらいで、会社においての自分の役割・立場を考える時に、技術系社員は非常に悩む時期になるのではないでしょうか?
Posted by レール交換じゃなくレール更換 at 2008年10月03日 23:36
レール交換じゃなくレール更換 さん

私がいたときも、土木系の人たちには同じ傾向がありましたね。
故山之内秀一郎会長も、建築系の人材について
「1000人近い建築技術者がいながら建物の修理だけをやっている。もっと創造的な分野でこうした人材を活用できないかと思った。」
http://railman.seesaa.net/article/105806691.html
と述べていましたが、大卒の優秀な人たちを集めて
「メンテ部門と新規PJ部門とどちらに進みたい?」
と問えば、普通は後者を選びますよね。
就職活動で会社案内のパンフレットを読んでいるときとは違い、冷静に現実を感じる瞬間。
どんな業界にもあることでしょうが、自分が選んだ会社、仕事に悩み、続けるか、辞めるか、二度目の選択が訪れますね。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2008年10月06日 08:31
はじめまして。内部の事情をすごくリアルに描写してあるので驚きました。
私も技術系総合職として某鉄道会社に入社し、現実を知って愕然とし、何年か勤務して辞めました。
私の場合は全くの異業界、異業種に就きました。
現場配属となった初日、職場を見て、現場の人と話して、昭和初期にタイムスリップしたように感じたことを覚えています。
…すべての現場がこういうわけではないですが。
私の実感として25〜27歳くらいなら、転職することは可能だと思いますが、それ以上居座るとかなり厳しくなるのは事実だと思います。
私鉄で不動産開発をバリバリやっていた人に関しては当てはまらないかもしれませんが。

これからも記事を楽しく読ませていただきたいと思います。
Posted by 退職者 at 2008年11月30日 11:30
退職者さん

コメントありがとうございます。

私も異業界、異業種に就きました。
そして私も同じように、鉄道の現場(またその現場を管理する非現業)の非ビジネスライクというか、泥臭い世界と、転職先の合理的な世界(普通のビジネスの世界なんですが)との違いに驚きました。

これからもよろしくお願いします。
退職者さんの転職ストーリーも聞かせてください。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2008年12月01日 21:03
職務経歴書を書く時がつらかったですね。

・鉄道現業(特定分野)の作業全般
・社内調整力(人の手配とか)
・社内向け資料の作成能力(誰でも作れる)

得られたスキルといったら、このくらいしかありませんでした。(精神的な成長等は除きます)
だから、なかなか書けなかったです。
入社して数か月で確信しました。
「たぶん一生いることはないだろうな」
それから危機感を持つようになって、ずっと英語を勉強してました。
これがアピールポイントになり、なんとか満足のいく結果を残せました。
ただ、辞職の意思を伝えた後が大変でしたけどね。
Posted by 退職者 at 2008年12月02日 22:56
退職者さん

私も職務経歴書を書くのに困りましたね。スキルとは関係ない職歴ばかりでしたから。

「辞職の意思を伝えた後が大変でしたけどね」
何があったのですか?強烈な引き留めにあったのですか?
私の場合、「転職」なんて考えたこともないおじさんたちから、不思議そうな顔をされました。なんか、寂しい気持ちになりました。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2008年12月05日 21:39
職務経歴書、同じく、苦い思い出ですね。

欄が埋まらないんですよ、書くことがないから。

趣味や勉強のこと、学生時代のアルバイト経験など、無関係のことを書いて埋めてしまいたい。そんな誘惑に駆られましたから・・
Posted by Via at 2008年12月06日 21:51
管理人さん

退職願が受理されたあと、お世話になった職場の人たちに連絡をしました。
その後すぐに現場の人からハガキやら電話等で「辞めないでくれ」と何度も言われました。
(脅しとか、そういう類のものではありません)
この時の引き止めは強烈でしたね。
現場の人たちとはかなり親しくなっていたので、さびしい気持ちは当然ありましたが、同時に「邪魔するなっ」という気持ちにもなりました。

Posted by 退職者 at 2008年12月11日 20:51
退職者さん

>ハガキやら電話等で「辞めないでくれ」と何度も言われました

これはすごいことですね。
私の場合、そんなことは一度もなかったなぁ…。
私も現場の人とは仲良くて、今でもBBQとか一緒にするほどなんですが、私自身が他の総合職の人と違ったタイプだったので、辞めることに対して納得感をもたれたのかも知れません。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2008年12月21日 00:13
検索ハシゴして拝見しました。

脱線事故あった会社の元契約社員です

4年3ヶ月契約社員で居ましたが、
時間単価のわりに収入が少なかったように思います。
社員の補完のような感じで、
ほぼ社員と同じ業務内容だったなーと。
ボケてるような社員からボーナス欲しかったくらい
です…(契約社員は定額しかくれない

んで正社員になれず…(駅務専用正社員ってのもなく

現在無職で、一応
オレンジの【3】の旅行会社
緑の【2】の会社の受託駅
を受けていて…まだ返事来ずに困ってます

【4】の委託は2社受けましたが…どっちも取ってくれませんでした…
Posted by くろっこ☆ゆい at 2014年07月11日 17:29
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