疲弊する若手社員 - 某JRの愛すべき社員

 「明暗分かれる鉄道ビジネス」

佐藤 充 4年ぶりの書き下ろし!
沿線に住民がいる限り、あるいは東京~大阪を移動する人がいる限り、JR東日本やJR東海には金が落ちる。その金額は2〜3兆円にもなり、まさに「金のなり木だ」。一方、需要の少ないところではいかに身を切る努力をしても経営が成り立たない。
JR各社と大手私鉄の鉄道ビジネスを俯瞰的に見渡しながら、儲けの仕組みを解き明かす。
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疲弊する若手社員 - 某JRの愛すべき社員

国鉄が解散してからそろそろ20年を迎える。
(この記事は2006年12月に書きました)

国鉄は巨大な負債を抱えて倒れた。
その後、「清算事業団」が土地を売却して負債の整理を進めたが、政治の要請もあり、バブル時代の一番高い時期に土地を売却することができず、最後は税金が投じられた。
国民に痛みを強いたのである。

JR発足10年では、世間の反発を恐れてお祭り騒ぎはなかったが、20年も経てば人の記憶は薄れる。来年春にはイベントも開かれるだろう。


前置きが長くなったが、JRが国鉄の清算から誕生し、まだ20年しか経ていないことを思い起こして欲しい。
国鉄末期、自立再建が不可能なことが明らかになり、新入社員の採用もできなくなった。
JR発足当時も、再生できるか不明で、新入社員の採用どころではなかった。(社員が他企業に出されたくらいである。)

そのため、JR各社は年齢構成がいびつになり、現在30代後半から40代始めの社員が極端に少ない。
採用再開後の現場社員一期生がちょうど30歳あたり。その上の現場社員は彼らよりも10歳以上離れている。

こういう異常な状態は、会社の経営の数字にはまったく表れないが、見えないところで深刻な問題を生む。

「おい、運用指令!特急が起動不能で線間で止っちまったぞ!どうすんだ!」

列車が止まってダイヤが乱れると、指令室には怒鳴り声が飛び交う。
(怒鳴る人ほど役に立たない。自分に矛先が向けられる前に、他人を怒鳴っておいて自己防衛しているだけだ。)

「それでは1234Aの運転士、パン下げ、リセットを行い、再起動願います」

怒鳴り声にさらされながら、見えないところで発生した故障に対し、運転士に指示を与える運用指令。
車両故障の対応だけでなく、乱れたダイヤをどうやって整理するか。車両のダイヤだけでなく、運転士、車掌のダイヤまで整理する。
混乱の中で働くこの職務は、褒められることが少なく怒られることが多い。
泊まり勤務でも仮眠中の呼び出しがある。
現場の中で、肉体的にも精神的にも一番きつい仕事の一つである。

運用指令は、当然、現場のエースが就くべき仕事である。
車両メンテナンス、車掌、運転士、各現場の当直業務などを十分に経験した人が、車両故障に対しては適切な指示を出し、混乱を最小限に抑え、車掌、運転士、現場当直を裁く。

現実は、なんと20代の、しかも大卒ではなく現場採用の社員が配置されている。

この最大の理由は、先に述べた中堅社員の枯渇である。
管理職前の、40前後の脂の乗った社員だけではポストが埋まらない。
さらに、鉄道では労組が乱立し、第一組合以外は重要業務から排除しているので人材の枯渇に拍車がかかる。


それにしても、20代の社員ではあまりにも経験が乏しい。社員は当然疲弊する。
酒が深くなり、ため息が多くなる。
これでは安全すら危うい。

労働組合が強固な鉄道だが、労組間で対立しており、自労組の組合員の抜擢に異を唱えることは…。

会社は、自動列車停止装置などの設備投資で安全を強調するが、肝心なところの対策は講じない。表に見えないところだ。
安全は脅かされている。



posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 16:07 | Comment(5) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
鉄道業界舞台裏の目撃者さん。お久しぶりです。何とか入社後半年を越えることができました。
年明けには車掌の試験が控えてるので、それに向かって頑張ろうと思います。
この業界の社員の年齢構成とても歪ですね。うちには30代の社員はいません。40代半ばから20代後半の社員がいないのです。
うちの駅にも違う組合の人がいます。ものすごい仕事ができる人なのに、なんで僕らと一緒の仕事なのかなと思った時期もありましたが、やっぱり組合が違うからでした。1度だけ組合の話をその人としたことが(勧誘は一切なしで・・)ありましたが、給料もボーナスも組合が違うからと言ってものすごく引かれているそうです。
それはおかしいな。と思います。でも、引かれる原因っていうのは、組合絡みのモノ(ペンやらその他もろもろ・・)を仕事中に付けないように言われても、それに従わなかったから。だったらしょうがないのかなと思うこともあります。会社の言うことに従わなければ給料は引かれてもしょうがないと思います。でも、会社=第一組合とみなした場合、他組合から言われることは関係ない!!って思うこともあるのかなと思います。
本来、会社と労働組合は別個として考えなければいけないはずなのに、あの人は他労組だからという理由で会社の人事の筋が通るのは、おかしいなあって思います。まあ、そんな鉄道事情も考慮した上で入社を決めたので何とも言えませんが。
「全社をあげて」とか「職場が一体となって」とかよく言うよって思います。20年たった今でも組合問題が解決されないでいる。内部問題の解決なくして安全問題は解決できない!自分もそう思います。
Posted by 関東人 at 2006年12月09日 14:39
関東人さん、お久しぶりです!書き込み、ありがとうございます。
他労組や、その組合員への複雑な思い、伝わってきました。

つい先日も、他労組の組合員に対する扱いで、鉄道会社が
敗訴したとのニュースが流れました。延々と続くこの問題。
解消させようという意図が、どの方面からも感じられませんね。
内部の問題にエネルギーを費やしている現状では、安全は
おろそかになります。安全設備への投資をいくら行っても、
本気さが感じられず、世論対策ではといぶかってしまいます。

関東人さんの職場は20代後半から40代半ばまでの大きな空白
があるのですか!ひどいですね。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2006年12月09日 23:25
>運用指令は、当然、現場のエースが就くべき仕事である。
>車両メンテナンス、車掌、運転士、各現場の当直業務などを十分に経験した人が、車両故障に対しては適切な指示を出し、混乱を最小限に抑え、車掌、運転士、現場当直を裁く。

は認識不足です。現場のエースのオジサンを運用指令に連れてきてもほとんど使い物になりませんよ。なぜだかわかりますか?簡単言うと彼らはいわゆる点でしか仕事をしていないからです。つまり現場のことしかわからないのです。運用指令は線での仕事です。その線区・特情に応じた手法なり手順がありそれを習得しなければなりません。また、検修はできても車両故障処置はできません。年齢断層の弊害はありますが、頭の涼しい20代社員のほうが早く仕事を覚えます。最も不都合なのが、やっと育ったのが他系統に行かれることです。
Posted by CCOS at 2007年02月19日 23:22
CCOSさん

コメントありがとうございます。
私と意見は異なりますが、読者の皆様に、別の意見が提供できました。

現場での仕事と指令の仕事は確かに異なりますね。現場で仕事が
できる人が、指令でも役に立つとは限らず、その点では同感です。

その上で私が警鐘を鳴らすのは、車両に対する知識、経験も十分に
積まず、(電源誘導を実習でしか経験していない人が、指令で電源
誘導を指示したり)、その経験不足に若い社員が疲弊していると感
じるからです。
中には、経験不足でも要領よく十分にこなすやり手もいます。しかし、
全体から見ると、また社員数等で余裕があった昔に比べると、若手に
しわ寄せが来て、組織としての疲労が蓄積しているのを感じます。

そのため、私としては、若手の比率が急激に増えた指令の現実に
疑問を感じています。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2007年02月20日 01:35
こんにちは、いつも楽しく見ております。
もう現場である程度「使える」人はとうに指令に出てきてしまい、いまだに残る出涸らしのオジサン連れてきても使い物になんないのも確かで、CCOSさんの仰せのとおりかと思います。
現場には30代半ばの指導員もいますが、組合バリバリで指令を敵視し、なにかにつけてイチャモンつけるのが仕事ですから、指令に来るわけがありません。
職場の組合に嫌気が差し、どこでもいいから転勤したいといって運用指令に来る人、ポテンシャル社員を「経験だから」といって運転士経験1年程度の社員を連れて来て足りない運用指令を「補充」する状態ですから、作者様の危惧も同感であります。
では、作者様、皆さま、どうしたらよくなるでしょうか?年齢層のブランクは如何ともしがたい状態であり、過去のことを嘆いても、仕方ありません。
運行はこんな状態でどうもいかないですから、お客さまや世間にご迷惑かけながら、パスモ売り切れを尻目にスイカを売りまくり、駅中で商売をするしかありません。
Posted by B777346er at 2007年04月22日 11:21
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