ボツになった出版企画「そのとき鉄道マンはどう判断したか?」

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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ボツになった出版企画「そのとき鉄道マンはどう判断したか?」

3年間温めて、数か月かけて書き上げた出版企画が、ボツになりました。

今回の企画は、福知山線脱線事故、信楽高原鐡道事故、地下鉄サリン事件の3つを取り上げたものでした。

奇しくも、福知山線脱線事故から8年目の25日に、最初の出版社から、企画会議でボツになったと連絡があり、そして今日、大手出版社から、

「一般読者が気軽に読むものではないため、結果は思わしくないのではないか」

という趣旨で、企画会議に上がることもなく、断られてしまいました。


(この企画、鉄道事故という「失敗」を主題にしたものですから、出版の「失敗」についても開陳しましょう。)


福知山線脱線事故は、9時18分に発生しており、朝の遅い大学生や、USJに遠足に行く高校生など、10代後半の人が多数亡くなった、大変痛ましい事故です。
(遺族の手記なども読みましたが、本当に胸が痛みます。)

この事故は、背景に会社の体質があったとしても、直接的には23歳の運転士が起こしたものでした。

制限速度70qのカーブを116kmで突っ込んで脱線転覆。車両は線路脇のマンションに激突しました。

彼はブレーキをかけなかったのです。なぜ、ブレーキをかけなかったのか・・・。

ある被害者は、

「運転士の自殺につき合わされたのではないか」

と、突きつけました。

無理もないことです。それくらい、あの急カーブでブレーキをかけなかったのは異常なことです。


彼には、交際している彼女もいました。友人も多く、スポーツ好きで明るい性格でした。自殺の兆候はありませんでした。


(「鉄道業界の舞台裏」でも書きましたし、ネタ晴らしをしましょう。)


彼はなぜブレーキをかけなかったか。

それは、その直前に起こした自分のミスに原因があります。彼は、ミスを隠ぺいしようとして、運転に意識がいっていなかったのです。

彼の運転ミスについて、車掌と指令が列車無線を始めました。
彼は、それを必死にメモしようとしたのです。
自分の犯したミスが、ありものまま報告されるのか、過少報告されるのか、神経をとがらせていたのです。

そして、目前に迫るカーブを見落としました。

これは私の推論ではありません。「航空・鉄道事故調査委員会」が明らかにした事故原因です。

彼の遺体は、左手だけ手袋をしていて、右手は手袋をしていませんでした。また、そばには乗務員用の特殊な赤鉛筆が転がっていました。

彼は、右手の手袋を外し、赤鉛筆を持ち、メモを取ろうとして事故を起こしたのです。

彼は、死にたくはなかったし、106名の命を奪うつもりもなかった。

宝塚駅で小さなミスを犯し、動転して伊丹駅で大きなミスを犯す。追い詰められた23歳の運転士は、ミスを隠ぺいしようとした。
そして、尼崎駅の手前で大事故を起こして亡くなってしまう。

この運転士を批判することも、JR西日本を批判することもできます。

だけど、もし私たちが同じような状況に陥った時に、冷静に対処できるか、事故は起こさないか。

私たちが電車を運転することはありません。しかし、同じような問いかけが、私たちの生活・人生の中でもできるのではないか。

人は、ミスを重ねると冷静さを失います。ミスがミスを呼びます。誰の身にも、大きな落とし穴はあるのです。

謙虚にそのことを受け止めて、「どうしたら大惨事を防げるか」を、この運転士の「失敗」を追体験して、我々一人一人が教訓化すべきだと思いました。

そんな思いで、3年間、この企画を温めました。

内容が重く、また鉄道事故は多くないので、1本の企画にするのに苦労しました。

類書も乏しく、そのうえ売れているものはなさそうなので、サンプル原稿をしっかり書きました。(実に、全体の40%も書いてしまいました。)

やはり悔しいですね・・・、損得ではなく、ただ書きたかった・・・、世に問いたかった・・・。

でも、出版もビジネスです。マーケットの広いところを狙わないといけません。

一般の人が手に取る本でないとダメなのです。
専門書を扱う出版社もありますが、そういうところは学者が書きます。

福知山線脱線事故は8年前の事故です。
風化させてはいけないものですが、現実には風化しています。

死中に活路を見出すべく、ベストセラー「失敗の本質」に絡めた企画書にしてみましたが、無理でしたね。


福知山線脱線事故、信楽高原鐡道事故、地下鉄サリン事件。だいぶ参考図書を読み込んで詳しくなりました。何度か取材で現場にも行きました。

出版は叶いませんでしたが、これは、どこかで世に問いたいと思います。

何より、私自身、これらの事故・事件から学ばせていただきました。
鉄道ライターとしても、これらの事故・事件は知っておかなければなりません。

出版は「失敗」したものの、無駄ではない、良い勉強でした!!

(2013年4月28日)

おかげさまで、この出版企画は形を変えて書籍になりました。



福知山線脱線事故については「鉄道の裏面史」で書籍化されました


2015年5月新刊
鉄道の裏面史

「鉄道業界のウラ話」
文庫本

単行本

文庫本

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 22:48 | Comment(4) | TrackBack(0) | 福知山線脱線事故 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
うーん、失敗から学ぶことは多くありますし、
また分析することも必要で、失敗学という
東大の先生が書いた著作もあったりします。
ただ、出版社の方の言う、気軽に手に取り
読めない、というのは文芸の世界ではやはり
人気とかありますのでまた一理あるかと。
放送でも万人受けするものを求められますので
キワモノははやり番組会議で採用されても
深夜枠から、などそれ専用の枠が用意されていたり。
内容を薄くはされたくないでしょうが、削って
新書という形では出せないものなんですかね?
ただ、今の出版業界は厳しいから…
好きな人は新書をたくさん読んでたりしますけどね。
Posted by kugizoo at 2013年04月30日 13:16
kugizooさん

ありがとうございます。
もう一度、この企画は練り直そうかという気になってきました。
出版できるような形にして、なんとか織り込んでいきたい・・・。
Posted by 佐藤充 at 2013年04月30日 22:10
同じ本、元々の版と文庫両方買ってしまいました
鉄道は身近ですが、内部事情は知りませんでした
もうぶっちゃけ、映画やドラマでの常務員とローカル駅員だけしか意識してませんでした
私鉄の運転手さんとは知り合いでも、仕事の話はしてくれませんね、同じことの繰り返しで飽きてしまう、、とのこと

この福知山線の事故、出版する予定で書かれていたとは、しかも企画の顛末まで、
とても良いと思います、風化させてはダメです
自分もマスメディアの動向と結論に流されてましたし、それしか知りませんでした
遺族感情もあるのか、裁判とかに影響があってはいけないということなのか

私は福知山線のこの電車、乗ってる乗客に死相が出てるということで、乗らずに見送った人、また見知らぬおばさんにあんたはダメだと引きずり降ろされ助かった人などいますよね

日航機ジャンボ墜落事故でも当該機に乗らなかった人、逆に席が出来たと喜んで乗り込んだ人たち

そういう話が、やたらと気になって仕方ありません

それにしてもローカル線でのキセルの話は頭にきますわ

廃止しちゃってください
あと組合、毎年春にストするあの組合
その親玉は選挙のたび立候補

おかげでつい最近まで絶対車通勤主義でした
さすがに馬鹿らしいので某C県を捨て
職場に近い品川に引っ越しましたが
支社でこんなにも違うのかと驚きます
(ぼろ電車ばかりでしたC県)
Posted by スト以来JR嫌いなマニア at 2013年11月01日 03:31
実は、この出版企画は形を変えて実現予定です。また、ご報告しますね。
Posted by 佐藤充 at 2013年11月01日 06:53
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