駅長の功名(1)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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駅長の功名(1)

鉄道は、地元との付き合いが重要である。
雇用を提供する一方、地元からは旅客収入を得る。
それだけではない。駅前の開発を行うのは鉄道会社ではなく、自治体。駅舎の改修も、自治体がかなりの金を出す。

駅やその周辺が整備されれば、それが魅力となって住宅開発が進み、働く場所も増え、乗客が増える。そして地価が上がり、鉄道会社の含み資産も増えるという仕組みだ。
鉄道にとって、地元が大事なのは言うまでもない。

その地元との接点で、もっとも身近なのは駅長である。実務的には支社や本社といった管理部門が担うが、駅長が現地外交官のような看板役になる。
それだけに、駅長のポストは意外に高い。
社内最大の駅の駅長を、会社役員にしているところもある。
また、管内の大きな駅の駅長は、支社の課長ポストを軽く凌ぐほどだ。


大きな駅の駅長は別格だが、駅長ポストは数が多いので、現場採用者でも駅長になるチャンスは十分ある。我慢に我慢を重ねれば、最後に会社が報いてくれる。
しかし、そこまでの我慢は、時には自分を殺さなければならないほど辛いことがある。
助役時代、鼻持ちならない、自分の子供と同じ世代の若い大卒に仕え、また、能力に欠け、態度だけは小領主のような上司にいじめ抜かれることもある。
さらに、現場社員の中には、出世欲もなく、ひたすら管理者に反抗しつづける、不良中学生のようなオヤジも多い。
まさに板ばさみである。

そんな辛い中間管理職に長年耐えた人に、ご褒美として最後に駅長のポストが用意される。
ルーチンワークに耐えたのが鉄道人生の前半、中間管理職の悲哀に耐えるのが後半。そして最後に「城主」になるのだ。


しかし、駅長室(あるいは大部屋の一角である駅長机)で、他の社員と離れて一人座っているのは、登りつめた席とはいえ、ある意味さびしいものである。
鉄道というシステムは、各社員が決められたとおりに動けば、駅長などまったくの無用の長物である。
(そのため、退職前のご褒美ポストにしても害はない。)

「もしもし、どうだ最近は、元気にやっているか?」

ある駅長の午前中の日課は、同僚やかつての部下への電話であった。

「こちらは相変わらずですよ。どうですか、駅長になられて忙しくなりましたか?」

電話の相手も心得たものである。忙しくないことを知っていながら、一応「主筋」にあたる人だけに自尊心をくすぐることは怠らない。

「まぁな、色々気苦労があって大変だよ。どうだ、今晩あたり飲みに行くか?」

今晩の飲み仲間探し、人事関係の噂話、名誉職の無聊の慰めのため、電話にかじりついて午前中が終わる。

午後は職場をまわる。長が来れば現場は身構えるが、それでも見回りをしないと現場から評価されない。つまり、うるさいことは言わず、「ご苦労さん」と言って見回ればいいのだ。
会議の資料作りなどは助役に任せれば、実務と言えるものは何もないのだ。

なんとなく寂しく、暇なポストであるが故に、部下を巻き込んで何か仕事をしてみたくなるのが人情である。

そのうえ、典型的な縦社会なので、部下である助役たちは従順である。
(大卒の部下だけは、自分より頭がいいだけに使いづらく、別の出世階段を歩んでいるだけに、従順でない。)

権力はある。ぜひ、後々まで現場で名が残るような功績をあげたい。

しかし、今まで創造的な仕事をしてこなかった人間だけに、現場の長になったからといって、突然変わるものではない。
従順な助役たちの上に立っても、何をすればいいかわからない。

鉄道マンとは、非常に受動的な人種である。
現場では、信号、ダイヤ、安全を確認する毎日。考える場面より、実直にルーチンワークをこなす場面が圧倒的に多い。
ある会社幹部はその様を、
「鉄道の仕事は、偉大なるマンネリである」
と表現した。マンネリだが誇りを持てという訓辞だ。
それだけ彼らは、システムに組み込まれて動くことを訓練されてきたのである。

さて、こんな長が思いつく「名が残るような仕事」とは何であろうか。
次号に譲るとしよう。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 23:53 | Comment(7) | TrackBack(0) | 鉄道会社の出世競争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マスターの「名が残るような仕事」ね。
個人的にロクなものは思い当たらないですが、
次回に期待してます。
Posted by 現職 at 2007年04月16日 21:17
作者様、現職様、「名が残るような仕事」は特急や快速止めるようなことでしょうか?あるいは臨時特急をぴっぱってくるとか。確かにロクなものは思い当たりません。
支社・本社に「大騒ぎ」してお願いしただけなのでしょうが、「自分の手柄」ように云うのではと思います。
ポテの新任現場長も、手柄が欲しくて厄介ですね。
Posted by B777346er at 2007年04月22日 11:30
はじめまして、現在就職活動中の大学生で、J○東の選考を文系ポテンシャル採用で受けているものです。
最近このサイトを見つけ、色々とびっくりしております。
質問なのですが、文系総合職でも、若いうちから大きな責任感を持って、クリエイティブな仕事をするのは不可能なのでしょうか?
しだいに、ルーチンワークばかりの生活に慣れ、そのような日々が居心地が良いと感じるようになってしまうんでしょうか?
Posted by 鉄道志望学生 at 2007年05月06日 15:38
鉄道志望学生さん

どなたか現職の方からのコメントをいただければ一番良いのですが。

私からコメントすると、文系ポテンシャルでも、数年は現場ですよ。現場が終わっても支社ですよ。
鉄道のような大きい世界では、クリエイティブな仕事は偉い人がやってくれます。
そもそも鉄道事業自体が、すでに確立したシステムを維持するものです。
そんな鉄道の中で、クリエイティブな仕事というのはどのようなものを想像されています?

http://railman.seesaa.net/article/27267184.html
で紹介した、「若者はなぜ3年で辞めるのか?」をお勧めします。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2007年05月06日 22:17
文系だと、駅→車掌→運転士と進んでから、やっと非現業です。また、非現業がクリエイティブかどうかと言うと、非常に疑わしいというのが現状です。
さらに、非現業勤務も束の間、助役になって現場に舞い戻る、というパターンも大いにありえます。

会社を3年で辞めるとしても、「以前の会社ではどのような業務を?」との問いに「駅員、車掌を経験し、現在は運転士資格取得に向けて…。」と答えざるを得なくなりますので、そこもしっかりと認識しておく必要があります。

民営化から20年を経た今でも、風通しは相当悪い会社です。ガチガチの官僚組織だと思っていただければ間違いありません。
厳しい競争を勝ち抜いて、文系ポテンシャルに採用されるような高い能力をお持ちの方は、他の道もぜひ考えてみて下さい。

もちろん、いろいろ考えた上で入社を決断されるのであれば大歓迎です。ただ、私の身近な先輩、後輩を見ている限りでは、現在の会社の状況を不満に思っている方が多いようです。

参考になりましたでしょうか。
Posted by 現職 at 2007年05月07日 00:46
”クリエイティブ”で思い出したことを一つ

最近、やたら「変革」を謳う某社にて、
座談会がありましたとさ。
そこで重役が最近の変革例を挙げました。
それはなんと、”机の配置を変えて風通しをよくしました”だって!

仕事への落しどころは他に見つけましょう。
トップがこれだからクリエイティブな仕事なんて無縁ですよ。
Posted by M54 at 2007年05月07日 02:57
色々とコメントありがとうございました。
考えが甘かったかもしれません。会社説明会では、「様々な地域活性化キャンペーン」や「スイカ導入」などの仕事ばかりが目立っていましたが、実際はそんな仕事はあまり与えられないようですね。

まだ「生活・サービス部門」の方で選考受ければよかったです。
Posted by 鉄道志望学生 at 2007年05月08日 01:05
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