駅長の功名(3)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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駅長の功名(3)

駅長について2回にわたって書いてきたが、今回が最後である。
 http://railman.seesaa.net/article/38855396.html
 http://railman.seesaa.net/article/40999220.html

前回は、ある駅長が他労組の中堅社員を転向させ、「功」を成す様子を描いた。

最後は、記念切符発売の顛末劇を紹介しよう。


記念切符の中には、首を傾げたくなるようなものがある。

「うちの会社が記念切符を発売するようなことか?」

というような、鉄道会社との繋がりがよくわからない記念切符だ。
正直、社内の筆者にも経緯が良くつかめないものが多かった。

その最たるものが「参議院50周年記念乗車券」。

後から調べてみると、JR各社の共同企画だとか。
参議院の50周年と、鉄道会社にどんな関係あるのか。

逆に、社内の人間よりも、切符マニアの人の方がよっぽど詳しいのではないだろうか。

こんな良くわからない記念乗車券を、ある駅長は手を挙げてたくさん割り当てをもらってきてしまった。
支社営業部から来た人なので、手を挙げざるを得ないし、営業部長の手前もある。

「俺は、この営業部長の人脈に連なっている」

という自負もあり、この格調高そうな記念乗車券を売って、文字通り自らの記念乗車券にしてやろうという思いに駆り立てられてしまったのだ。


さて、これを売ることになった駅員。記念乗車券の束を前に言葉を失った。
印刷代が高そうな、A4サイズのきれいな紙である。
どこが「乗車券」なのかと思ったら、下部が何枚分かの切符となっていて、ハサミで切り離して使えるようになっている。

「こんなの絶対に切符としては使えないね。」

改札担当の駅員からも本音が漏れる。
すでに自動改札が全面的に普及している時代である。こんな切符を持って来られても自動改札は通れないし、ハサミで切り離されていれば改札窓口でも本物かどうか判断できない。
事実上、使うことができない切符である。

「マニアはこれを買って額にでも飾るのか?」

マニアの気持ちは、社員にも良く理解できない。こんなものでもよろこんで買う人がいるのだろうか。

鉄道会社というのも変なところで、採用選考ときにはマニアを避け、社内のマニア志向は忌み嫌うのに、マニア向けの商品は結構売り出す。
これもその一つだろう。
事実上、使うことができない切符をつけることで、A4の紙を1,000円で売るというのは、一般客から見ればひどい商売としか言いようがない。


実際に駅で売り始めてみたが、さすがに売れない。
時々「子供のお土産」と言って、一般の方が購入されるが、売っている方の良心が痛んでしまう。
自分が客だったら絶対に買わない商品である。

売る方の士気も上がらず、そもそも商品企画に問題があるので、総数で見れば全く売れていない状態だった。

「こんなに売れなくて、偉い人の立場は大丈夫だろうか。」

そんな心配を現場がするようになったとき、駅長がポケットマネーで数百枚買ったという情報が飛び込んだ。
もはや、社内で吸収するしかないのだ。
駅長がここまで大きく自腹を切れば、助役が何もしないわけにはいかない。
社内で誰も責任を問われることがない程度に内部で消化した。

とんだ記念乗車券顛末記である。それだけ平和な業界なのである。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 00:11 | Comment(2) | TrackBack(0) | 鉄道会社の出世競争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ここで想定されているマニアというのは

収集癖のある人のことだと思います。自分が決めた分野の物品を徹底的に集めるタイプ。
テレビ番組の「何でも鑑定団」で出てくる、様々な分野のコレクターもその種の人だと思います。特に、「このお宝ください」と言っているような人たち。

余談ですが、私個人としては収集癖はないです。保管上の問題などを考えるととても集められないです。また、記念乗車券・企画乗車券類も「旅客の『旅行』として使う商品」としてよさそうなものだったら買うし、そうでないと思えば買わないです。

私が偉そうに申し上げるのも失礼かもしれませんが、この参議院記念のきっぷは、お客がどんな乗車券を求めているかというマーケティング的なことよりも社内事情が先行して発売されてしまったものではと思いました。


・社内としてはマニアを避けるのにマニア向けの商品を多く売り出す・

ということですが、
私も、そのようなことを感じていました。変だな、と。総合的な鉄道趣味雑誌を読むとすぐ分かると思うのですが、鉄道会社としてもマニア向けのイベントをよくやっているようです。「ほんとにマニアを避けているならばそういうイベントはしないはずだ」と思うのが普通ですよね…?
Posted by dfh at 2008年02月25日 18:26
もうひとつ突っ込みを入れさせていただきますが、

この記事で出てきた参議院記念切符って、マニアを意識したというよりは、ある社員の昇進のためだけに企画されたものでマニアを収益の対象として考えたものとは思えないなとずっと思っていました。
Posted by 酸っぱいブドウ at 2010年05月25日 14:01
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