問題社員(1) - 某JRの愛すべき社員

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
Top某JRの愛すべき社員たち >問題社員(1) - 某JRの愛すべき社員

問題社員(1) - 某JRの愛すべき社員

毎日、毎日、同じ仕事でうんざりだ。
多くの乗務員はそう感じているだろう。

子供の頃からの憧れの運転手とはいえ、環状線をぐるぐるまわる仕事は苦痛。

「この駅を通るのは、今日で4回目だ…。」

うんざり。

また途中にトンネルがあるような線区だと、トンネルに入るたびに気分が暗くなる。

車掌も同じ。来る日も来る日も何十回と車掌業務を繰り返していると、何も考えなくても、体が自動で車内放送、ドア扱いをするようになる。


一流大学を出たような人間は、このルーチンワークに

「脳みそが退化しそうだ…。」

とぼやく。

「他の会社に就職した仲間がバリバリ働いているのに、自分はいったい何をやっているのだろう。」

こんな焦りを感じるのだ。

逆に言えば、本社採用の大卒で乗務員コースを通る人は、鉄道マニアとは言わないが、それなりの鉄道好きの方が向いている。
変な焦りは押し殺し、電車を運転できる喜びを噛みしめられるからだ。
(どちらにせよ、本社採用の大卒は1年程度しかハンドルを持たない。)


ちょっと余談になってしまった。

ともあれ、退屈をまぎらわすのは、乗務員の毎日の課題であるとも言える。

「昼下がりの運転台」でも書いたが、退屈に身を任せてしまうと、運転士は眠くなる危険性もあるのだ。

助役や指導さんからは、

「退屈なときは、事故やダイヤ乱れを想定して、イメージトレーニングしながら乗務しろ。」

とは指導されるが、もちろんそれだけで毎日の退屈を埋められるわけがない。


そんなある日、若い運転手が、運転室に私用の携帯電話を持ち込んだ。
目的は、乗務中に運転台からの写真を撮るためだが、もちろんそれは許されない行為だ。

彼は鉄道マニアなのか、それとも写真を彼女や友達に自慢したいだけだったのだろうか。
いづれにせよ「退屈をしのぎたい」というのが背景にあった。

区での点呼を済ませ、いつもどおりの乗務が始まる。

主要駅を抜け、駅間の長いところに入ると、彼はさっそく写真を撮り始めた。
悪いことをしているスリルで、退屈も眠気も吹っ飛ぶ。

運転に気を使いつつ、撮影ポイントを決め、すかさずシャッターを押す。
いつもと違ってとても忙しい。しかしそれだけにおもしろい!

この運転手も、駅間の風景を撮っているだけならまだ良かったのだが、だんだんエスカレートしてしまった。
構図に駅のホームも入れたくなり、車両が駅構内に入っているときにシャッターを押してしまったのだ。

そこが彼の人生の落とし穴。

ホームにいたお客様に写真を撮っているところを目撃され、会社に苦情をあげられてしまった。

お客様による目撃は動かせない証拠。当然処罰の対象になった。

実は携帯電話による不正行為はたまにあることで、処分内容はケース・バイ・ケース。
場合によっては会社を首になることもある。


ちなみに筆者が車掌業務をやったときに使った暇つぶし法。
(これもまずいのだけど)英会話の本を持ち歩き、乗務の前にフレーズを頭に詰め込む。
退屈になると、そのフレーズを頭の中で反復させて暗記し、乗務の終わりに、間違っていなかったかどうか本で確認する。

普段それほど勉強するわけではないが、脳みそが退化する焦りがあると、人は勉強したくなる。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 00:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/5679664

この記事へのトラックバック