国際部(2)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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国際部(2)

(この記事は2007年10月に書きました。)

前回、「国際部」を持つ鉄道会社があることを書いた。

「国際部」の実態には触れなかったが、「国際部」に期待を膨らませる学生の心理を紹介した。

「鉄道会社には、グローバルに活躍できる舞台がないのではないか?」

そんな悩みを持つ学生にとって、「国際部」の存在が希望となる。

しかし、結論から言えば、鉄道会社の「国際部」の実態はお寒い。

当然と言えば当然で、調達は国内メーカーがほとんどで、サービスの販売先は国内市場のみ。鉄道事業というビジネスモデルの中で、海外との取引が発生することはほとんどない。

余談だが、鉄道会社もコストダウンのため、車両に海外部品を積極的に採用した時期がある。しかし、これは定着しなかった。

海外の鉄道と日本の鉄道では、輸送の過密さ、機器にかかる負荷が異なるため、要求される品質のレベルも違う。
日本では、大都市圏のラッシュ時間帯は2、3分おきの過密ダイヤとなるところもあり、一つのトラブルがダイヤ全体に波及する。同じ故障でも、列車密度によって引き起こされる影響がまったく異なるのだ。
さらに、駅間が短い場合が多いために加減速、ドア開閉も多く、機器への負荷も高い。激しい混雑もそれに追い討ちをかける。当然ながら、負荷が高ければ故障発生率も高くなる。

この高い要求に対して、海外メーカー品はなかなか答えられず、故障が発生した場合も原因究明、対策の実施が迅速にできない。
結局、一度は海外メーカーの部品を採用してみたものの、国内メーカーに回帰することになる。
余談になってしまったが、仕事内容から言えば、海外部品を採用しても、国内の商社を通じて購入するので、国際的なものではない。
さらに、これら調達業務は各事業部門で行うので、国際部の業務とは関係ない。

海外鉄道会社との技術提携も、密接なものでなければ、効果が高いものでもない。
鉄道会社というのは基本的にメーカーではなく、メーカーから調達したものを利用してサービスを提供する「ユーザー企業」だ。ユーザー企業同士が技術提携をしたところで、新製品、新技術が生まれるわけがない。海外メーカーの技術や、海外で発生している技術的課題を、鉄道会社から仕入れる程度のものである。鉄道事業全体から見て重要な業務とは言えない。
どちらにせよ、これも研究開発部門の業務で、国際部の業務とは関係ない。

では、海外との取引が乏しい鉄道会社で、「国際部」の主要業務は何だろうか?

まずは海外から視察、研修に来る人たちの対応である。
JRは、民営化に成功した鉄道事業として海外からも注目される。
鉄道は、非常に大きな投資と非常に広い土地の確保が必要なので、国を問わず、官が敷設し、そのまま官営となっている場合が多い。近距離ならばともかく、都市間を結ぶ鉄道ともなれば官営でスタートするのがほとんどだろう。
官営の鉄道事業は、大きな利権がからむために経営が歪みやすく、赤字になりやすい。これを民営化で正し、効率化、黒字化させて、法人税を払わせると、国の赤字事業が一転、税収に貢献するようになる。
JRは民営化で、品質を落とさず、運賃値上げもせず、輸送力を増やした上で、経営を軌道に乗せた。注目される成功例である。
さらに、民営化が成功しただけでなく、高速鉄道や、ダイヤの正確さなど、鉄道システムのレベルも高いため、海外からの視察、研修の要望は高い。

国際部は、海外からの視察、研修の依頼に対して、日程を組み、現場や支社と調整し、宿泊の手配をする。特に賓客であれば接待も用意し、社内の偉い人と会談もセッティングする。通訳の手配も怠れない。
言ってみれば、現地旅行代理店のようなものだ。
国際部でありながら、受け入れの場合、英語が必要になる場面はほとんどない。日本語で、国内の関係各所に電話するのが日常の業務である。

逆に、社内の偉い人が海外を視察することになれば、海外駐在事務所が現地旅行代理店となる。
ヒエラルキーの高い、ピラミッド型組織の典型なので、偉い人には非常に気を使わなければならない。
事前に視察先の情報を整理して渡しておき、現地の空港で出迎えを待たせておくのは言うに及ばない。視察への随行も必要であり、企業視察以外にも、切符を手配して色々な鉄道に乗せる。特に、偉い人がマニアの場合、その趣味的な欲求を満足させておかないと機嫌を損ねかねない。
周りを振り回すような偉い人だと、その海外視察の意義がどれほどあるかは分からないが、気苦労ばかり多い。

それ以外は、海外鉄道事情の情報収集。新聞やインターネットで記事を集め、社内に情報発信する。
事故に関する情報は、経営者や幹部が把握しておかないとまずい。大企業で、安全に関わる企業なので、とかく外部からの批判対象になる。揚げ足を取られないレベルに理解し、外部に語れるようにしておくのが重要なのでなる。

以上、国際部の業務は、海外の鉄道が対象なだけで、内容は「総務部」の属するようなものだ。
事業を推進する事業部というよりも、海外関連の窓口である。
「国際部」という大きな看板を掲げている一番の意義は、存在そのものが広告塔になり、学生を惹きつけ、会社のイメージアップになっていることだろう。

存在意義はそれなりにあるかもしれないが、この部署を目指して入社するのは正しい選択とは思えない。どう考えても、熱意ある者が生涯を捧げる仕事ではない。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 23:45 | Comment(4) | TrackBack(0) | 就職の現場(非現業編) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
事前に種明かしをしてしまったようで申し訳ありませんでした。しかし誰の目から見ても微妙な部署だったわけですね。
Posted by 現職 at 2007年10月21日 22:28
偉い人って、シミュレーター運転させてあげると喜びますよねw
Posted by 匿名希望 at 2007年11月28日 23:04
「日本の鉄道は優秀」・・・

日本人の視野の狭さを感じます。
Posted by ダメダメSE at 2008年02月15日 22:56
記事拝見いたしました。JRでは海外に鉄道を売り込もうと本気に見えます。
記事の内容は昔の話ではないのでしょうか。
Posted by at 2012年08月01日 03:17
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