酔客の顛末

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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酔客の顛末

12月は忘年会シーズン。金曜日でなくても、夜の電車は酔っ払いが多い。
そんな酔っ払いに苦労させられるのが駅員である。酔って気が大きくなっているサラリーマンは、やくざよりも扱いにくいという。

「お客さん、起きてください。終電が行ってしまいますよ。」

ホームのベンチで寝てしまったサラリーマンを、駅員が体を揺すって起こしにかかる。

「うるせー、お前、誰に向かって文句言ってんだー」

中にはこんな手合いがいるから大変だ。泥酔して訳が分からなくなっているのだが、気だけは大きくなっているから駅員の言うことなど聞かない。
そればかりか、拳を振り回してくることすらあるので、駅員も体を揺するときには気をつけなければならない。顔を近づけていると、無意識に振り上げられた拳で鼻を殴られかねない。無意識ならばともかく、本気で殴ってくる客もいる。

やくざの方が心得ているもので、相手に怪我をさせればどういう結果(最悪、懲役○年)になるか分かっているから、迫力はあっても下手に手は出さなかったりするらしい。
しかし酔ったサラリーマンは、結果を考えずに突っかかってくることがあるので、扱いが大変である。

乗客に怪我をさせられれば、鉄道会社は全面的に社員を守り、泣き寝入りはしない。法務担当がいるので、示談金で決着がさせるか、決着しなければ告訴も辞さないのだ。

暴力を振るった酔客も、その瞬間はオスとして動物的闘争本能が発揮できて爽快な気分になるが、こんな表立つところでは法の裁きは免れない。
示談金を請求され、拒否すれば告訴。動物的には勝者の気分を味わっても、法の力には怯えて尻尾を垂れるしかない。
家族に知られれば軽蔑を受け、会社に知られれば職を失いかねない。痴漢と同じである。

駅員にとってみれば、示談金をもらえるとはいっても怪我はしたくないもの。こういう酔客はごめんだ。しかし、もちろん多くの酔客は従順なものである。

「お客さん、終点ですよ。」

終点の駅で、車内で寝過ごした酔客を起こす。

「んー・・・、乗り過ごした・・・。のぼりの電車は?」

「もう終わっていますよ。駅を閉めますから、出てもらえますか。改札に言って、ここまでの運賃を精算してくださいね。」

中長距離の路線だと、乗り過ごしの料金も高い。泣きっ面に蜂だが、寝過ごした自分が悪いと観念し、大人しく料金を払い、寒風が吹き荒れる中、外で始発電車を待つ。
八つ当たりもせず、悲惨な結果を受け入れる様は健気なものだ。

駅で起こしてもらえればまだいい。
電車が車庫に入るときは、一応駅員が乗客をいないことを確認することになっているが、なぜかそれでも回送車両で車庫まで入ってくる客が稀にいる。

「あなた、乗り過ごしですか?ここは車庫ですよ。」

駅ならばともかく、見慣れない車庫で気がつけば客も驚く。
事態が飲み込めない中を促され、乗務員室を通り、地面に降りる。ホームがないので、車両のステップを使って降り、着地するところはバラストである。さらにそのまま広い構内を歩かされて、門扉まで連れて行かれる。

「ここから駅までは歩いて20分くらいですから。タクシーもあんまり走らないからね。歩いた方がいいと思いますよ。」

車庫で発見されれば、乗り越し運賃を請求されることはないが、駅まで送ってくれるわけでもない。駅で起こされれば始発を待つだけだが、車庫まで来てしまうと、駅に戻らないと始発にも乗れない。

この客もすっかり酔いは覚め、言われるがまま、トボトボと駅まで歩いて帰った。
こんな失敗も旧年まで。この人にも明るい新年が訪れることだろう。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 23:39 | Comment(2) | TrackBack(0) | 人身事故・鉄道雑学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>酔客

困った方々ですね、確かに。近年は、ホーム・改札要員や宿泊行路にも女性社員が入っていることもあり、会社側も余計厳しい対応を取るのでしょうね。


現職時代、一杯ひっかけた客が他人の指定席を譲れと言って若い女性とトラブルを起した場面に遭遇したことがあります。女性客が「この人痴漢です!」って叫んだわけです。当初は痴漢事件なりかけていた所、一部始終を見ていた乗客が複数証人になって、争点をあくまで他の客への因縁ということに戻し、警察の方で処理したようです。この人痴漢です!思わずそう叫びたくなる気持ちも十分分かります。女性の鉄道警察官曰く、酔っ払いなどに絡まれたり、困った客に因縁をつけられたら、悲鳴をあげる、大声を出すだけで十分だそうですよ。

それにしても、酔客というのはどういう騒ぎに発展するか予想がつかないので、困ったものです。

Posted by Via at 2007年12月09日 16:14
Viaさん

こんにちは。書き込みありがとうございます。

女性社員に悪さをする客もいますね。ここではとても書けないような
被害も発生するようで。

酔客も大変ですよね。酔客に因縁をつけられても客は客なので、無視したり、
反撃したりはできませんしね。

私も今は一人の乗客として、トラブルを起こす客とは同じ車両に同乗したく
ないものです。平穏を乱されるのは嫌ですからね。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2007年12月11日 23:18
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