遅刻厳禁(3)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
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遅刻厳禁(3)

この話題も3回目になるが、もう少しお付き合いください。

出勤遅延に異常に厳しい社風は、言うまでもなく乗務員職場が発生元である。乗務員の出勤遅延はダイヤを乱れにつながり、影響が非常に大きいからだ。
それでも、一つの職場に何百人、支社全体で千人を超える乗務員を抱えているので、どうしても根絶しない。

では、乗務員が出勤遅延した場合、どんなドラマが繰り広げられるのか見てみよう。

車両も乗務員もそうだが、故障や病気などに備えて、必ず「予備」がある。
つまり、”何もなければ何もしなくても良い”という勤務が乗務員にはあるのだ。

乗務員が出勤遅延した場合は、この予備の人を乗せればいいだろう。しかし、年休や社内研修などで予備がいない場合もあり、そうなれば非番の人を呼び出す。それも間に合わなければ、最悪、乗務員がいないためにダイヤが乱れることになる。


いずれにせよ、ダイヤを確保した後、出勤遅延した乗務員は現場管理者から事情聴取を受ける。
前日何時に帰宅したか、何時まで酒を飲んだか、何時に寝たか、朝は何時に目覚まし時計が鳴ったか、これらが時系列で並べられる。矛盾のない時系列ができあがれば、原因、背景、今後の対策などがまとめられ、報告書になる。

このように、起こしてしまった問題を放置せず、しっかり対処するのは会社としてすばらしい。本来はあたりまえのことなのだろうが、事故を隠蔽する会社はあとを絶たない。
失敗はオープンにしたくない、と思うのが人間だが、会社としてはオープンにして教訓にしなければならない。

涙ぐましいのは、出勤遅延が起きるたびに、それぞれ対策を立てなければならないところだ。単純な寝坊でも、

「今まで目覚まし時計を1つしか使っていなかったけど、これからは2個にします。」

といった具体的な対策を立てる。根絶されない寝坊に対して、その都度バラエティに富んだ対策を立てるのは難しい。「目覚まし時計を増やします」という対策は、これから10年経っても、20年経っても、鉄道現場から出され続けるだろう。


報告書ができると、現場管理者はそれを携えて支社に行く。

「若い社員の意識が低いんじゃないか?」

「今までの対策が、区内で水平展開できていないのではないか?」

「この社員、家庭内に問題があるのではないか?」

支社では、報告書をもとに、乗務員指導担当と、現場管理者との間でこんなやりとりが交わされる。本人に事情聴取したときの現場管理者は攻める側だが、ここでは守る側になる。


鉄道というのは非常に”泥臭い”ところで、このような社員の管理が業務の90パーセント以上を占める。
(最新鋭の車両や設備があるのでハイテクな世界かと思ったら大間違い。それらはメーカーがつくり、鉄道会社は飽くまでユーザー。環境は変わっても、”泥臭さ”はそれほど変わらない。)

「社員の管理」を英語で表現すれば「マネージメント」というのかもしれないが、そんな格好いいものではない。

「眠い盛りの若い人を、どうやって寝坊させないで出勤させるか。」

「サラ金に手を染めてしまった社員をどうするか。(取り立ての電話が職場にかかってきたらどう対応するか、社員の勤務態度は崩れないか。)」

「『俺たちの組合を差別するな!』と、何かにつけて怒りをぶつけてくる、過激な労働組合闘士とどう向き合うか。」

こういうことに永遠と取り組むのが「社員の管理」である。


出勤遅延などの不祥事に対して自らの襟を正すだけではなく、「他の社員を教育する!」という熱い思いを持てる人がこの業界には向いている。鉄道会社というのは、大きな学校のようなところで、大卒で入社する人は(風紀担当の)先生になる気構えが必要だ。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 12:33 | Comment(3) | TrackBack(0) | 鉄道会社の知られざる社風 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
通勤電車の遅刻をさせないように心血を注いでください
Posted by at 2016年06月21日 11:51
俺も社員だが、何か異常に詳しいな。
Posted by at 2016年08月23日 22:01
最近福知山線横転事故についてのドキュメントを見て、こちらへたどりつきました。

鉄道会社社員でしたが、鉄道の知識も必要のない付属病院の看護師でした。

ですが、本社と同じく1分でも出勤遅延するとすぐさま病院内中へ通知がまわり、すぐに個人特定されるという吊し上げのような環境は付属病院でも同じでした。
前日からの時系列行動や反省文、今後の対策などの書面化や尋問。
もちろんのこと周りから冷ややかな目。
上司、管理部、本社へ出向き謝罪。
目覚まし時計を2個、3個へ増やすくだりはまさに同じで少し笑えてしまいました。

ですが、医療が本来の業務。人材不足で昼御飯の時間は20分は当たり前の悲惨な現場。
病気の人の命を預かるというプレッシャーも重く乗しかかります。
それに加えて安全管理やホスピタリティのための取り組み、係、勉強会、看護研究、
加えて本社と同じ取り組み、労組活動等々...。
座る暇もなく朝から晩まで走り回ってその後はPCでの記録での残業。
業務外でたくさんのことを行い、精神的につぶれて10年も持ちませんでした。

鉄道も医療も人命を扱う仕事という多大なプレッシャーや責任感が必要ですが、
医療職の私から見れば本社の取り組みまで強制されたことに疑問を感じています(始業20分前到着の強制や、その20分前に遅れる場合すぐさま連絡する決まりなど)
ギスギスした環境や本業(医療)を圧迫し影響が出ていた当時の現状は受け入れがたいことでした。
自分の退職の時期はやはり大量離職のためその後採用枠を増やし多少人材不足改善だけはされたとのことでしたが。
このような出勤遅延の取り組みやギリギリの採用枠は、付属病院として切り離されることを恐れてのことだと聞いてます。

と 言いつつも鉄道を安全に利用できる環境は貴社の社内努力によるものだと思うとありがたく思います。
お疲れ様です。
Posted by 元国鉄某付属病院 at 2017年12月01日 04:43
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