説教は続くよどこまでも(2)

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売
Top就職の現場(運転士・駅) >説教は続くよどこまでも(2)

説教は続くよどこまでも(2)

前回は、不正乗車を行った婦人がお目こぼしを受ける話を書いた。
当然のことながら、いつもそんな寛大な処置が行われるわけではない。

ある朝、駅事務所の会議室に女子高生が連れていかれた。不正乗車の発覚である。
(自動改札が普及した今日ではほとんど発生しないが)定期券を使ったキセルを日常的に行っていたらしい。

定期券は学校の最寄駅から隣の駅までの最短区間だけで、自宅からは130円の切符で乗り込む。(自宅は学校の隣の駅ではないので、定期券の区間と切符の区間の間が不正乗車区間である。)
親からは正規の定期代をもらっておいて、キセルで浮いた金を着服していたのだ。

女子高生が捕まった話は一般の駅員にも伝わり、会議室は暗黙の内に出入り厳禁になっていた。
それにしても、終わる気配がない。女子高生が会議室に入ったのは朝の通勤時間帯だが、10時になっても、10時半になっても終わらない。

「女子高生はどうなったんですかね?」

通勤ラッシュが終わって一息ついた頃、若い改札の駅員が先輩に尋ねる。
自分も数年前は高校生なので、気になって仕方ない。

「まだ続いているみたいだな。最初は○○助役が相手していたようだけど、△△助役に代わったみたいだぞ。」

先輩の方も、関心なさそうな顔をしているわりには耳が早い。
かわいい娘なのかな、女子高生に説教できるなんて助役も役得だな、なんてことを本当は考えている。

そういうよこしまな考えを別にすれば、概して一般駅員の気持ちは複雑である。不正を続けていた女子高生に対する怒りもあれば、つまらないことをやって説教を受け、世間に知られ、青春の一ページが汚れることに同情もしていた。いずれにせよ、心中穏やかでない。

警察の取り調べはドラマなどでご存知の方も多いだろう。取調官が次から次へと入れ替わる。
その道のプロである警察は巧妙で、威圧するタイプが取り調べるかと思えば、雑談を振ってくる一見人情派のタイプも取り調べる。取調官を代えることで、口を割らない人から供述を引き出したり、別の人が同じ質問をして、供述の微妙な違いから矛盾を追及する。

駅員の不正乗車の対応は、さすがに警察の取調べとは比較対象にもならないが、応対する人を代えながら延々と続くさまは似ている。黙して語らない相手だと、一人では続かないためだろう。

会議室では、女子高生を相手に助役が同じ話を繰り返していた。
女子高生と二人きりで会議室というのもすごいシチュエーションだが、楽しい雰囲気ではない。

「あのね、こういうことをやってはいけないことは分かっていたでしょ?」

助役が話をしても、女子高生は顔も上げない。

「もう学校が始まる時間でしょ?連絡先だけ教えてよ。お母さんは?」

逮捕、監禁というわけにはいかないので、さっさと済ませたいのが助役の気持ち。そのうえ、こんな子供のような女子高生を相手にしても仕方ないので、お金を払える保護者を呼んで手続きを進めたいところだ。

駅の方も、ここまで来てしまったら、ウヤムヤにして解放させるわけにもいかない。女子高生も親や学校には知られたくない。どっちも引くに引けない状態が続いてしまっていた。

さすがにこの女子高生も、駅員の終わらない説教に参ったのか、自宅の連絡先を白状した。自宅から母親が呼ばれ、また会議室にこもる。

親に対しても説教がされた後、定期券は没収、罰金の請求。このへんの処分は「鉄道営業法」に基づいて決まっているので、情状酌量の余地もなにもない。規定の処分をさせていただくだけだ。

親は平謝りで処分を受け入れた。

「申し訳ありませんでした…。」

頑固な女子高生も、親にここまで迷惑をかければ、さすがに涙目である。
張り詰めていた精神も崩れ落ちたように、涙がわいてきていた。

助役も含め、誰にとっても後味の悪い一幕である。

「なんでこんな馬鹿なことをやってしまったのですか、お嬢さん。」

心の中でつぶやくしかない。
posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 21:48 | Comment(3) | TrackBack(0) | 就職の現場(運転士・駅) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
平謝りの親で幸いでしたね。

盗人猛々しいというのか、狐には狐の理屈あり
というのか、厄介な御仁もいますよ。
あくまで日付を間違えたと言い張られてやむなく
学校や警察に知らせる例、散々逆ギレした挙句、
警察に相談するという言葉を聞いて初めて謝る
親子。停学や退学処分が嫌だったら最初から
やるなっつーねん。

これは、いい年をした勤め人ですが「例え自由席でも座れないのは契約違反だから絶対料金は払わない!」
と言い張って、鉄道警察に引き取ってもらった
例もあります。
Posted by Via at 2008年02月26日 18:40
Viaさん

親まで逆ギレする人がいるのですか。それもすごいですね。
顧客層が厚い鉄道ですから、開き直る人、インネンつける
ヤ○ザさん、弁だけは達者な強引なインテリさんと、現場では
お客さんとのドラマが多いですね。いいドラマもあれば、嫌な
ドラマもいっぱい…。
Posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 2008年02月29日 19:28
顧客の層が厚いということでは役所と同じ!
就職した若者に話を聞いて、そんな気がしています。

各種税金、公的年金、社会保険料の滞納者。要するに、不払いのための言葉の暴力なら何でもする。ともかくキレて意図的に話をかみ合わせないようにしている、政治家や組織の不祥事を根拠に自己の不払いを正当化する…。差し押さえ手続きを進めることを通告してはじめて支払う。

「電車の遅延があったのだからサービスしろ」
「組織の不祥事があった分、利用者に割り前をとらせろ」
「お前の顔が気に入らないから払わない」

今、古巣の人に聞いてみると、暴れる産業の対策法があるし、、防犯カメラの効用もあって、幸い、処理した悪質な顧客の「お礼参り」はないようですが。


Posted by Via at 2008年03月08日 21:07
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/85765723

この記事へのトラックバック