愛すべき「鉄道マニア」様

 「明暗分かれる鉄道ビジネス」

佐藤 充 4年ぶりの書き下ろし!
沿線に住民がいる限り、あるいは東京~大阪を移動する人がいる限り、JR東日本やJR東海には金が落ちる。その金額は2〜3兆円にもなり、まさに「金のなり木だ」。一方、需要の少ないところではいかに身を切る努力をしても経営が成り立たない。
JR各社と大手私鉄の鉄道ビジネスを俯瞰的に見渡しながら、儲けの仕組みを解き明かす。
2019年9月30日発売

鉄道マニアと採用(1)

読者の中には鉄道マニアの人も多いだろう。
そんな方々にはちょっとショックな話。

鉄道会社は、基本的に鉄道マニアを採用しない。

(とは言っても、社内には鉄道マニアの人も結構いるので、絶望しないでほしい。また、会社によっても多少違いはあるかもしれない。)


どういうことか。

鉄道車両マニアの人。183系、189系車両がどんどん廃車されているのをどう感じますか?

183系、189系は、国鉄時代に(直流区間で)定番だった特急車両。国鉄の特急といえばこのタイプを思い浮かべる人も多いだろう。

鉄道マニアならずとも、この往年の特急車両が減っていくのは寂しく感じる。

※ちなみに、最近では中央本線(あずさ・かいじ)、内房線(さざなみ)外房線(わかしお)にE257系が投入され、183系・189系はずいぶん減ってしまった。

しかし、走り続けて30年。今や完全な老朽化車両。


交換しなければならない消耗品も新型車両に比べれば圧倒的に多く、人手が必要でコストがかかる。消費電力も多い。

また、お客様からのクレームも、トイレの臭い、雨漏り、冬場の冷気の進入のような、経年劣化が要因でなかなか改善できないものも少なくない。

もちろん故障も多い。
故障しても、交換する部品もすでに生産していないものばかりで、廃車になった車両から取り外した部品を使いまわすしかない。

このような事情で、鉄道会社としては、経営的観点から古い車両は一刻も早く廃車にしたいのだ。


しかし、もし鉄道会社が鉄道マニアの集まりであったならどうだろう。
愛着が邪魔して廃車が遅れてしまうのではないか。


つまり鉄道会社としては、「趣味が高じている人は、経営的判断を誤るのではないか」という懸念があって、鉄道マニアの採用は避けているのである。


ある採用担当の幹部から聞いた話。

採用面接の際、

「あなたがこの会社に入ったら、どこを改善したいですか。」

と聞いたら、学生はおもむろに(本当は流通してはいけない)業務用の鉄道ダイヤを広げ、

「私だったら、このスジ(列車ダイヤ)を見直して乗り継ぎを改善し…」

と、熱く長時間にわたって自説を語り始めたそうだ。

当の幹部はうんざり。

不採用になったのは言うまでもない。


仕事は、愛着を持てないと続けられないだろう。

しかし、会社である以上、お客様に支持されつつ、適正な利潤を得て、社会のために税金を納めなければならない。それが第一義だ。

不採用になったこの鉄道マニアも、一本一本のダイヤを論じるより、鉄道という事業について大いに語るべきだった。




  「鉄道業界の舞台裏」が書籍化



 鉄道マニア様も知らない、働く場としての鉄道業界。

 『社名は絶対明かせない 鉄道業界のウラ話』

  【目次】

  第1章 事件ばかりの鉄道の現場

  第2章 タブーだらけの鉄道の管理部門

  第3章 複雑怪奇な鉄道の人間模様




posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 23:27 | Comment(59) | TrackBack(0) | 愛すべき「鉄道マニア」様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

記憶に残るマニア様

「鉄道マニア」というのは幅広い。

外務大臣(2010年当時)の前原誠司も、かなりの「マニア」である。

彼の奥さんはかなりの美人なのだが、新婚旅行先の北海道では、(新婚旅行にも関わらず)趣味のSL撮影に興じてしまったらしい。

タモリの鉄道好きもよく知られている。

※書籍「鉄道業界のウラ話」の元ネタであるため、本文は有料コンテンツとして公開します。

書籍「社名は絶対明かせない 鉄道業界のウラ話」 →Amazon →楽天

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 22:12 | Comment(21) | TrackBack(0) | 愛すべき「鉄道マニア」様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

鉄道マニアと採用(2)

以前書いたが、鉄道会社の採用では、鉄道マニアは好意的に評価されないことが多い。
鉄道マニアとしての思いと、会社の施策が相容れない場合があるからである。

「鉄道マニアと採用(1)」http://railman.seesaa.net/article/5491130.html

会社は、情よりも銭勘定を優先せざるを得ない。
マニアに愛された往年の車両でも、メンテナンスに人手がかかり、故障の多い車両なら、廃車にして経年の浅い車両に置き換える。

「さよなら○○系」なんてヘッドマークをつけた電車に乗って、涙を流すような人に新車の投入計画をやらせられないだろう。


それでは、鉄道会社の社員に鉄道マニアはいないのか。
そんなことはない。それなりにいる。超巨大なヒエラルキーの頂点である本社役員にも鉄道マニアがいる。

話はそれるが、日産のゴーンさんは「カーキチ」(熱烈な車好き)で、自ら発売前の車をサーキットで走らせたことがある。
車を作る人が車好きでないと、売れる車はできない。そんな思いで、日産社員を鼓舞した。

その反面、鉄道ではマニアと一般人で客単価の違いはほとんどなく、嗜好性の追求が顧客満足度をあげるものではない。

社内でも、「社員よ、鉄道マニアたれ!」なんて風潮はまったくなく、マニアであることを公表しても、損することはあっても、得することは少ない。
本社役員ですら、マニアであることを自ら吹聴することはなく、公然の秘密にする。

しかし、そこは縦社会の鉄道会社。
偉い人が鉄道マニアならば、周りは知らない振りをして、その人のマニア心を満たすために色々世話をやく。

例えば、廃線になるローカル線があるとする。鉄道マニアはこういうニュースに敏感だ。
マニアの役員の取り巻きは、このいうニュースを仕入れれば、役員を廃線直前のローカル線に乗せるように手配する。

手段はいくらでもあるのだ。
そのローカル線の近くに自社のエリアあれば、現場や支社への出張をつくる。
無事故で問題が発生しない静かな現場ならば、表彰の口実を探す。
事故を発生させている現場ならば、事故防止の監査目的で視察に行く。
自社のエリアでないときには、近くのメーカーに工場視察に行く。

夜は懇親会を入れて1泊させれば、翌日は廃止になるローカル線に乗せられる。

「これで点数を稼げた」とほくそえむ取り巻き。
犬のように忠実な取り巻きに囲まれ、マニア心を満たして子供のようにはしゃぐ本社役員。
内々の論理で、時間とエネルギーを費やす。
不思議な世界である。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 21:09 | Comment(8) | TrackBack(0) | 愛すべき「鉄道マニア」様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

さよなら○○系

毎度ご乗車いただきまして、ありがとうございます。
マニアのお客さまには日ごろから格別のご愛顧を賜り、社員一同、心よりお礼申し上げます。

そんな皆様のため、私どもは古い車両形式を廃止する際、「さよなら○○系」と称して存分に別れを惜しんでいただいております。

本当のことを申しますと、そんな企画をする支社社員の私どもは、新型車両の導入実現のため、事あるごとに本社に陳情を行ってきた張本人であり、往年の車両がなくなって誰よりも喜んでおります。
そんなことはおくびにも出さず、イベントを挙行しているのですよ。

※書籍「鉄道業界のウラ話」の元ネタであるため、本文は有料コンテンツとして公開します。

書籍「社名は絶対明かせない 鉄道業界のウラ話」 →Amazon →楽天

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 17:53 | Comment(15) | TrackBack(0) | 愛すべき「鉄道マニア」様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マニア社員の活躍

車両が配属されている、とある区所。いわゆる「車庫」に、鉄道マニアの社員がいた。
彼は中途採用で入社した大卒で、前職は鉄道車両の機器メーカー。
そこで技術者をしていた。

鉄道会社の技術者は、技術者と言っても図面を描くような人はほとんどいない。
立場上はメーカーより鉄道会社の方がはるかに優位ではあるが、技術面では常に負い目を感じており、メーカーに対する心境は複雑なものがある。
そんな鉄道会社に、メーカー出身の技術者が加わるのは心強いことであった。

期待されて入社した彼だが、実は筋金入りの鉄道マニアだった。
メーカー技術者としての経歴が買われ、車両担当として入社したにも関わらず、乗務員がやりたくて毎回乗務員の試験を受ける。

車両メンテナンスの人が乗務員試験を受けるのは、ルールとしては問題ないが、建前と本音があるのが大人の社会であり、鉄道はそれが濃厚な陰湿な世界である。
乗務員へのキャリアパスは、実質、駅員からのルートしかない。
それ以外のルートで乗務員になることはほとんどなく、ましてや中途採用で車両メンテナンス部門に入った人が、乗務員になることはありえないのだ。

 「あいつはアホか・・・」

彼の熱意を評価する人はいない。呆れるだけである。
試験の結果は、毎回不合格。二十歳そこそこの高卒の若い子たちが続々と合格する中、大卒でメーカー技術者として活躍していた彼が不合格となる。
この会社の仕打ちから、鉄道の陰湿な掟を悟ってもよさそうなものだが、毎年受験する。ご苦労なことである。

その他にも彼は、区所にある廃車予定の車両から、車号が書かれたプレートを持ち帰ったり、仕事と言うより趣味に近い写真を撮ってきたり、周りに迷惑をかけるわけではないが、そのマニアとしての行動に白い目が向けられていた。

そんな彼だが、鉄道マニアの知識を業務に役立てたことが一度あった。
彼の区所に新車が投入されることになり、その走行試験に添乗したときのことである。
都市部を走る通勤用車両の新車だが、試運転(本線での走行試験)は、列車本数の少ないローカル線で行われた。新車の企画から最後の走行試験まで、鉄道会社側で関わるのは本社の運輸部だけで、支社や区所の人はこの試運転で初めて新車に触れる。

私は、このとき支社の車両担当として、マニアの彼と一緒に試運転に添乗した。

「ウチの支社にも、また新車が一本増えたか。」

新車が増えるということは、古い車両が廃車になるということである。経年劣化による故障など、古い車両は厄介者。それが新しい車両に置き換えられるというのは嬉しいことだ。お客さまにも新しい車両の方が喜ばれる。
ほくそ笑む私に相槌を打ちながらも、鉄道マニアの彼は心から喜んでいる感じではなかった。本音は明かさないが、鉄道マニアとして、往年の車両がなくなるのを惜しんでいるのかもしれない。

「それでは発車になります」

本社の人が試験開始を宣言する。メーカーの人は機器に向かって各種の計測を開始する。本日の主役はこのメーカーの人たちである。鉄道会社側も、車掌や運転士はこの珍しい乗務に身を引き締めており、緊張感に包まれて車両は動き始めた。

「1ノッチ・・・、2ノッチ・・・、3ノッチ」

車両は順調に加速する。途中駅のホームには、熱心な鉄道ファンがカメラを向けている。
マニア社員の彼も、新車の走行試験に添乗できて、まんざらでもない顔だ。

「あれ?」

そんな彼が、急に怪訝な表情になった。

「どうかしましたか?」

私が尋ねると彼はだんだんと興奮し、

「た、大変です。この車両、ホウテンです!」

と騒ぎ始めた。

(ホウテン?漢字で書くと「方転」だっけ?車両の向きが上りと下りで逆になっているってことだよな・・・。)

鉄道車両は上から見ても、上下左右対称で、向きは関係ないように思えるが、機器の配置などは非対称であり、上りと下りの向きが決まっている。
車両担当の私でも、車両の床下の機器配置やパンタグラフの位置を見ないと分からないが、マニアの彼は車内を見ただけで車両の向きが逆になっていることに気づいた。

結局これは、笑い話のようなメーカーのミス。

「さすがマニア!」

このミスのおかげで、白眼視されがちだった彼は、マニアであるが故の功名を上げることができた。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 08:14 | Comment(3) | TrackBack(0) | 愛すべき「鉄道マニア」様 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする