某JRの愛すべき社員たち

 「誰も語りたがらない 鉄道の裏面史」

佐藤 充 5年ぶりの書き下ろし!
107 名の死者を出した「福知山線脱線事故」、政治家の思惑がからみあう「新幹線の利権」、鉄道が買われる「阪神電鉄村上ファンド買収事件」、東京を襲った未曾有のテロ「地下鉄サリン事件」、首都圏で起こった乗客の暴動「上尾事件」、初代国鉄総裁の謎の死「下山事件」……
2015年5月15日発売

問題社員(1) - 某JRの愛すべき社員

毎日、毎日、同じ仕事でうんざりだ。
多くの乗務員はそう感じているだろう。

子供の頃からの憧れの運転手とはいえ、環状線をぐるぐるまわる仕事は苦痛。

「この駅を通るのは、今日で4回目だ…。」

うんざり。

また途中にトンネルがあるような線区だと、トンネルに入るたびに気分が暗くなる。

車掌も同じ。来る日も来る日も何十回と車掌業務を繰り返していると、何も考えなくても、体が自動で車内放送、ドア扱いをするようになる。


一流大学を出たような人間は、このルーチンワークに

「脳みそが退化しそうだ…。」

とぼやく。

「他の会社に就職した仲間がバリバリ働いているのに、自分はいったい何をやっているのだろう。」

こんな焦りを感じるのだ。

逆に言えば、本社採用の大卒で乗務員コースを通る人は、鉄道マニアとは言わないが、それなりの鉄道好きの方が向いている。
変な焦りは押し殺し、電車を運転できる喜びを噛みしめられるからだ。
(どちらにせよ、本社採用の大卒は1年程度しかハンドルを持たない。)


ちょっと余談になってしまった。

ともあれ、退屈をまぎらわすのは、乗務員の毎日の課題であるとも言える。

「昼下がりの運転台」でも書いたが、退屈に身を任せてしまうと、運転士は眠くなる危険性もあるのだ。

助役や指導さんからは、

「退屈なときは、事故やダイヤ乱れを想定して、イメージトレーニングしながら乗務しろ。」

とは指導されるが、もちろんそれだけで毎日の退屈を埋められるわけがない。


そんなある日、若い運転手が、運転室に私用の携帯電話を持ち込んだ。
目的は、乗務中に運転台からの写真を撮るためだが、もちろんそれは許されない行為だ。

彼は鉄道マニアなのか、それとも写真を彼女や友達に自慢したいだけだったのだろうか。
いづれにせよ「退屈をしのぎたい」というのが背景にあった。

区での点呼を済ませ、いつもどおりの乗務が始まる。

主要駅を抜け、駅間の長いところに入ると、彼はさっそく写真を撮り始めた。
悪いことをしているスリルで、退屈も眠気も吹っ飛ぶ。

運転に気を使いつつ、撮影ポイントを決め、すかさずシャッターを押す。
いつもと違ってとても忙しい。しかしそれだけにおもしろい!

この運転手も、駅間の風景を撮っているだけならまだ良かったのだが、だんだんエスカレートしてしまった。
構図に駅のホームも入れたくなり、車両が駅構内に入っているときにシャッターを押してしまったのだ。

そこが彼の人生の落とし穴。

ホームにいたお客様に写真を撮っているところを目撃され、会社に苦情をあげられてしまった。

お客様による目撃は動かせない証拠。当然処罰の対象になった。

実は携帯電話による不正行為はたまにあることで、処分内容はケース・バイ・ケース。
場合によっては会社を首になることもある。


ちなみに筆者が車掌業務をやったときに使った暇つぶし法。
(これもまずいのだけど)英会話の本を持ち歩き、乗務の前にフレーズを頭に詰め込む。
退屈になると、そのフレーズを頭の中で反復させて暗記し、乗務の終わりに、間違っていなかったかどうか本で確認する。

普段それほど勉強するわけではないが、脳みそが退化する焦りがあると、人は勉強したくなる。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 00:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

問題社員(2) - 某JRの愛すべき社員

前回、乗務中の不正行為で処分される運転士の話をした。

こういう話をすると、鉄道会社は規律が守られ、小さな違反も厳しく罰せられるところだと思われるかもしれない。
しかし、実態は違う。中にはとんでもない社員もいる。


車両メンテナンスの職場。一般に「車庫」と呼ばれるところでは、車両整備の社員が大勢勤務している。

自家用車では、数年おきの車検以外に整備されることは少ないと思うが、鉄道車両は約3ヶ月で整備に入る。
1日に数百キロ単位で走行するので、ブレーキパット、パンタグラフの磨耗部など、数ヶ月で取り替えになるのだ。

消耗品の点検・交換ばかりではなく、3ヶ月おきの整備では、電気的な接点の清掃、摺動部への油さし、各機器の点検・清掃、総合試験などを行っている。


このようなメンテナンス職場は、お客様の目に触れないだけに、かなり個性的な人たちが集まっている。

後藤さん(仮称)は50代のベテラン社員。
顔は酒焼けして赤くなり、手元は震え、年齢以上に老けこんでいる。
「おじさん」というより、「おじいさん」と言った感じで、肉体労働ができるようには見えない。

車両メンテはチームワークであり、メンバーの中にこういう人がいるのは心もとない。
そのうえ後藤さんは、他の社員とはあまり話さず、詰所でも一人になりたがるのだ。


朝、ミーティングを行った後、現場社員はそれぞれ自分の持ち場に向かう。

点検用のライト、汚れを取るウエス、インパクトレンチなど、作業に必要な道具を集めて持って行くのだが、後藤さんだけはその他に、必ずウーロン茶のペットボトルを持って行く。それも、新しく買ってきたものではなく、どこかで中身を詰めてきたもの。

だいたい、作業が始まる前には若手が作業者全員にお茶を配り、作業が終わって詰所に戻ってきたときにもお茶が配られる。

新陳代謝が激しい若い社員でもないのに、作業の合間にまで飲み物を飲むのは不自然だろう。

実は、このウーロン茶には焼酎が入っている。

後藤さんは完全にアルコール中毒だ。

さすがに、一緒に働いている現場社員は気づいているが、後藤さんは酒臭いにおいを気にして、他の人には近づきたがらないのである。

管理者も、まったく気づいていないわけではないが、そのウーロン茶を取り上げ、アルコールが入っているかどうか確かめる者はいない。
万が一アルコールが入っていなかったら、他の現場社員に突き上げられるし、労働組合からもものすごいたたきにあう。そうなれば、その現場にはいられなくなるだろう。

勤務中にこっそり酒を飲み、作業は適当。消耗品が限度値を超えていても取り替えず、手を抜けるところはほとんど手を抜く。
それでも、焼酎入りのウーロン茶と同じ理屈で、管理者には露見しない。

こんなにおいしい話はない。

労働現場に就職する皆さん。
土木・建築の現場、メーカーの製造現場、小売の現場。どこと比べてもこんなおいしい「現場」はない。

大卒で総合職希望の皆さん。
給料のいい会社の総合職になれるのはごく一握り。一般企業の給料では、アル中の後藤さんにも勝てないかもしれない。
プライドとネクタイを捨てて、電車の陰で酒飲む男になってみてはいかがだろう。

世の中とは不平等なものだ。


働く側からすれば、隠れて酒飲んで、手を抜き、それなりにいい給料をもらえて幸せだろう。

しかし、利用する側から見ればたまったものではない。


明日あなたが乗る車両、後藤さんが整備した車両でないことを祈ります。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 18:37 | Comment(3) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

千人の上に立つ - 某JRの愛すべき社員

前号では本社について紹介した。超巨大組織の頂点は、皆さんの目にどう映っただろうか。
「優しいだけでは勤まらない」

今回は、中間組織の支社について見てみよう。


サラリーマンの皆さん、御社の課長には何人の部下がいますか?

これは会社によってずいぶん差があるだろう。

例えば、営業などで、やたらと課長が多い会社がある。
これは、取引先などを訪問したとき、「課長」の肩書きの名刺を出すと

「わざわざ偉い人が来てくれた」

と、それだけで相手が好印象を受けるからだ。

実際、鉄道会社に納入するメーカーでも、「課長」「担当課長」「副課長」「課長代理」など、

「この会社の営業は課長しかいないのではないか?」

と疑いたくなるくらい、課長ばかりの会社がある。


また、(リストラで最近は減ったが)社員の平均年齢が高くて、役職者ばかりいる古い会社もある。

大手鉄道会社もその一つだったが、それも時代の流れで整理された。

無駄な役職者が整理されると、10〜20人くらいの課員は、一人の課長に仕えることになった。これは他の会社と比べても平均的な方だろう。

しかし、(厳密に言えば部下ではないが)配下の現場も含めれば、千人以上の社員の上に君臨する課長さんもいる。

駅、旅行代理店を管轄する営業課長。乗務員、車両メンテを管轄する運輸部の課長。そして、事実上すべての課長の上に立ち、支社の全社員に睨みを利かす人事課長など。
「労働組合の基礎知識」

余談だが、人事課長は「人長(ジンチョウ)」とも呼ばれる。過激な労働組合と渡り歩き、社員の生殺与奪を握る灰色の権力者。その圧力に負けないために、周りは「人長(ジンチョウ)」と呼んだりするのだ。
ちなみに、営業課長を「営長」とか、総務課長を「総長」とは呼ばない。
人事課長だけが別格なのである。


これだけの社員の上に立つ課長、まず第一に求められる素質は「重み」である。

サラリーマン金太郎の土建現場ではないが、一癖も二癖もある現場社員がいるので、軽くては話にならない。
「問題社員(2)」

(これも余談だが、この重みが、余計に納入メーカーを米つきバッタにさせる。)
「優しいだけでは勤まらない」


どこに行っても必ず社員の目にさらされる課長。
飲み屋で飲んでいてもうかつな話はできないし、土日にパチンコを打っているのも見栄えが悪い。
もちろん、風俗店へ出入りなどしようものなら、あっという間に支社内に知れ渡る。


「重み」が必要とはいっても、一朝一夕にはできない。無理して身に着けようとしても、ストレスを溜めるだけ。息苦しい役目である。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 21:39 | Comment(15) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

3K職場で一番ラクな人 - 某JRの愛すべき社員

鉄道の現場で、いちばんの3K職場は「保線」のような気がする。

(3Kとは「きつい・汚い・危険」の意味。念のため。)

それはなぜだろうか。


 その1「作業が深夜に行われる」

鉄道の世界で泊まり勤務は付き物だが、駅や乗務員、指令員の仕事は、基本的に終電とともに終わる。
つまり、終電から初電までの一番眠い時間に仮眠が取れるというわけだ。
ところが保線、電力は、その一番眠い時間に作業しなければならない。

そして夜間作業がある場合、

 8:30〜:通常勤務

 23:00〜:夜間勤務

のように、1日に2回の出勤になる。
夕方に通常勤務が解放になり、夜の仕事が始まるまでに夕食と仮眠。
そんな時間に眠れと言われてもね…。


 その2「列車にはねられる」

列車は自動車と違い、工事区間を迂回できない。
作業員の方が、ダイヤを確認し、見張り員を立てて、列車の来ない隙に作業することになる。

しかし、臨時列車を忘れていてはねられることもあるし、吹雪のときなど、視界もなく、音も消える中、突然現れる列車に轢かれることもある。
事故は減ってもなくならない。


 その3「体に悪い作業」

技術は進んでも、鉄道の軌道構造に大きな進歩はない。レールを枕木が支え、枕木をバラスト(砂利)が支える。
バラストを新たに盛った後、強い振動でバラストを慣らす作業があるが、これがきつい。

マルチプルタイタンパーという保線用の車両もあるが、微調整や、やりにくいところは、振動を与える機械を使って人が慣らす。
強力な振動を体に受ける作業は、当然体に悪い。


こんな3K職場だが、鉄道会社の社員は恵まれている。

保線の世界では、外注化が進んでいるので、「体に悪い作業」は鉄道会社の社員はやらない。(その3で書いた作業も、業者の仕事。)

深夜勤務はつらく、会社の中では裏方だが、3K仕事はどんどん外注。
鉄道会社の社員は、発注、契約、監督に仕事が集約され、給料は業者より高い。

こんな3K職場で働くなら、絶対に鉄道会社の社員がいい。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 23:23 | Comment(4) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

勤務より酒の方が長い人 - 某JRの愛すべき社員

忘年会シーズン。
この時期になると、普段お酒を飲まない人でも、何回か飲む機会がある。

今回は、鉄道会社の酒の飲み方を見てみよう。

鉄道の現場というのは、やはり働きやすいところなのかもしれない。

「3K職場で一番楽な人」
http://railman.seesaa.net/article/10157760.html
では、日勤と深夜勤のダブルヘッダーなど、ちょっと辛い勤務を紹介した。

しかし辛いとはいえ、現場は残業が少なく、勤務時間という面では楽である。

酒飲みには最高な環境。

5時半に勤務が終了すると、6時前に行きつけの飲み屋に入る。
勤務地近くの社宅や寮に住んでいる人は、これがエンドレスな時間の始まである。

寝る時間の直前まで粘って、飲み屋を出るのが25時半!
計算すると、勤務時間よりも長く飲んでいたことになる。

大卒総合職ともなれば、たまにはこんな飲みにも付き合う。
彼らは、

「普段は聞くことのできない現場社員の意見を聞け!」
「職場を活性化させろ!」
「現場に飲み込まれず、溶け込め!」

などと刷り込まれているので、異常な酒飲みとの付き合いも「勉強の一環」として取り組むことになる。
(こんなのが「勉強」といわれるので、学校の勉強を真面目にやってきた人たちは混乱することが多い。)

確かに、エリート風を吹かせているより、

「酒飲めばただの馬鹿です」

と思われた方が、後々仕事がしやすくなる。

大卒総合職は、あっという間に、人に仕事をお願い(指示)するような仕事に就くが、現場のおじさんとの付き合いは理屈ではない。
大卒総合職の若いやつに、黙って従うのは面白くないものだ。

大卒総合職が最短で現場のおじさんと仲良くなるには、一緒に酒飲んで、一緒に馬鹿をやって、仲間意識を育てておくのが一番手っ取り早い。

それも、おじさんの説教をただ聞かされるような飲みではダメ。酒飲んでケツを出してみたり、問題にならない程度に馬鹿をやって、おじさんを圧倒させると効果が大きい。


筆者が学生のとき「商社の男たちは”男芸者”と言われ、馬鹿みたいに酒飲むのが仕事」だと言われた。
そういう業界を避けて入社したつもりだったが、鉄道も同じだった。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 21:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

働きやすい会社 - 某JRの愛すべき社員

「ヒルズ族」などという言葉まで生んだ、ITベンチャー企業。
その中には、野球球団、テレビ局、銀行などの老舗業界にも触手を伸ばし、驚異的な勢いを世間に見せつけてきたところもある。

企業だけではない。その経営者も注目を集めた。

サラリーマン社長とは桁違いの年収、自家用ジェット、芸能人との交遊など、豪奢な生活も話題になった。


これらは、学生にも少なからず影響を与えた。

「豪奢な生活を送りたい。」
「時代を切り開いていきたい。」

動機はどうであれ、一流企業や官僚への道の他に、「起業する」「ITベンチャーで自分を試す」という選択肢を、学生が手に入れたのだ。


今回このような新興企業に注目するのは、鉄道業界と正反対なので、比較がしやすいからだ。


 【フラットな組織は働きやすい?】

あるITベンチャーでの話。社員A氏は、業界で働く魅力をこう語る。

「企画は社長が直接審査し、承認をもらえば完全に任される。そのスピードと自由さがたまらない!」

ITベンチャーは、概して組織が非常にフラットになっている。
ライブドアも、役員クラスと一般社員の間に、中間管理職をほとんど置かなかった。

(余談だが、ホリエモンは社員からも「ホリエモン」と呼ばれていたらしい。ある意味、社長は身近なのだろう。)

新しい企画を立案したら、それを承認するのは役員。
立案から実行までの間の手続きが皆無なので、スピードが求められる世界では適したシステムなのである。
(ただし、こういう会社では結果が厳しく問われるのは言うまでもない。)

鉄道はまるで正反対。組織は、官庁のように非常に大きなヒエラルキーである。

一枚の社内文書を発行する場合も、まず直属の課長クラスが一字一句細かくチェックする。何度も細かい修正を行い、やっと課長の承認を得ると、(社員の労働が関係する場合などは)部内の企画課長にまわされる。

大きい金額のものなどは、さらに部長の承認が必要。

鉄道の部長というは「偉い人」なので、もったいぶっている場合が多い。
どうせ、すでに自分より頭の切れる課長クラスが二人も承認しているのだから、考えることもなく

「良きに計らえ」

という結論になるのだが、ただサインだけするだけでは馬鹿みたいなので、

「担当の者、説明をいたせ!」

から始まり、文言など、重箱の隅をつつくだけつついて、やっと承認する。
(重箱の隅をつついても、課長の体面上、修正はあまりない。)

これで終わらないのが鉄道。

関係部署が他にもあれば、そのすべての部署でこれと同じ承認をもらう。
(例えば、駅社員にも関係すれば営業、乗務員にも関係すれば運輸。)
さらに、社内(現場)への通達となると、総務の承認も必要。


鉄道というのは、企画部門などなくても、列車は走り、お金が入ってくるシステムである。
競争の激しいIT業界と違い、文書などいくら遅れても、実は大勢に影響はない。

それよりも、下手な文書を発行し、労働組合からの突き上げをあう方がよっぽど怖い。
大勢の人に承認させ、間違いだけは絶対に起こらないようにして、スピードを殺す。

しかし、社員は暇なのかといえば、手続きや調整が多いので、仕事は進まず、十分忙しい。


さあ、あなたならどちらを選ぶ。
1.結果は厳しく問われるが、スピードのある外向きの世界。
2.スピードはないが、承認を積み上げ、調整にいそしむ内向きの世界。

あなたのご意見お待ちしています。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 00:02 | Comment(9) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

疲弊する若手社員 - 某JRの愛すべき社員

国鉄が解散してからそろそろ20年を迎える。
(この記事は2006年12月に書きました)

国鉄は巨大な負債を抱えて倒れた。
その後、「清算事業団」が土地を売却して負債の整理を進めたが、政治の要請もあり、バブル時代の一番高い時期に土地を売却することができず、最後は税金が投じられた。
国民に痛みを強いたのである。

JR発足10年では、世間の反発を恐れてお祭り騒ぎはなかったが、20年も経てば人の記憶は薄れる。来年春にはイベントも開かれるだろう。


前置きが長くなったが、JRが国鉄の清算から誕生し、まだ20年しか経ていないことを思い起こして欲しい。
国鉄末期、自立再建が不可能なことが明らかになり、新入社員の採用もできなくなった。
JR発足当時も、再生できるか不明で、新入社員の採用どころではなかった。(社員が他企業に出されたくらいである。)

そのため、JR各社は年齢構成がいびつになり、現在30代後半から40代始めの社員が極端に少ない。
採用再開後の現場社員一期生がちょうど30歳あたり。その上の現場社員は彼らよりも10歳以上離れている。

こういう異常な状態は、会社の経営の数字にはまったく表れないが、見えないところで深刻な問題を生む。

「おい、運用指令!特急が起動不能で線間で止っちまったぞ!どうすんだ!」

列車が止まってダイヤが乱れると、指令室には怒鳴り声が飛び交う。
(怒鳴る人ほど役に立たない。自分に矛先が向けられる前に、他人を怒鳴っておいて自己防衛しているだけだ。)

「それでは1234Aの運転士、パン下げ、リセットを行い、再起動願います」

怒鳴り声にさらされながら、見えないところで発生した故障に対し、運転士に指示を与える運用指令。
車両故障の対応だけでなく、乱れたダイヤをどうやって整理するか。車両のダイヤだけでなく、運転士、車掌のダイヤまで整理する。
混乱の中で働くこの職務は、褒められることが少なく怒られることが多い。
泊まり勤務でも仮眠中の呼び出しがある。
現場の中で、肉体的にも精神的にも一番きつい仕事の一つである。

運用指令は、当然、現場のエースが就くべき仕事である。
車両メンテナンス、車掌、運転士、各現場の当直業務などを十分に経験した人が、車両故障に対しては適切な指示を出し、混乱を最小限に抑え、車掌、運転士、現場当直を裁く。

現実は、なんと20代の、しかも大卒ではなく現場採用の社員が配置されている。

この最大の理由は、先に述べた中堅社員の枯渇である。
管理職前の、40前後の脂の乗った社員だけではポストが埋まらない。
さらに、鉄道では労組が乱立し、第一組合以外は重要業務から排除しているので人材の枯渇に拍車がかかる。


それにしても、20代の社員ではあまりにも経験が乏しい。社員は当然疲弊する。
酒が深くなり、ため息が多くなる。
これでは安全すら危うい。

労働組合が強固な鉄道だが、労組間で対立しており、自労組の組合員の抜擢に異を唱えることは…。

会社は、自動列車停止装置などの設備投資で安全を強調するが、肝心なところの対策は講じない。表に見えないところだ。
安全は脅かされている。

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 16:07 | Comment(5) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

旅行業のお嬢さんたち - 某JRの愛すべき社員

以前、駅の出札(み○りの窓口)のガラの悪い「営業職」の人たちのことを書いた。

 「俺は営業(1)」http://railman.seesaa.net/article/20167784.html
 「俺は営業(2)」http://railman.seesaa.net/article/20887998.html

荒くれた鉄道文化の血を引くオジサンの中には、とんでもない人がいるものである。

対照的に、旅行業の窓口の女の子たちは人当たりが良い。
混雑する駅の出札の場合、「スピードが命」とばかり、人をさばくように接客する人もいるが、旅行業の窓口は、もともと接客時間が長くなる商品を売るところなので、ゆったりしている。

切符の発券は圧倒的に出札の方が早いが、買う方がモタモタしていると、出札のオジサンにイライラされて嫌な顔をされかねない。
商品を売るほうがイライラし、買う方がオロオロするのも変な話だが、国鉄時代からの悪習。それとは無縁の女の子たちが登場したのはうれしいことである。
長距離切符や定期券は安いものではない。物腰柔らかく、丁寧に接客して欲しいものだ。

一方で、彼女たちは驚くほど鉄道を知らなかったりする。
(今は、契約社員がほとんどになっているので、なおさらかもしれない)

秋田新幹線が開業した頃の話。

サラリーマン風の中年男が、旅行業の窓口に切符を買いに来た。

「来週水曜日、朝9時代のやまびこで盛岡まで。禁煙の窓側で。乗車券はここからね。」
(当時は「はやて」が登場しておらず、「やまびこ」が盛岡までの最速列車であった)

「かしこまりました。しばらくお待ちください。」

普通の駅員とは違った、ちょっとおしゃれな制服を着た旅行業の女の子。
鉄道会社の社員とはいえ、気持ちは旅行会社で働いている気分で、丁寧な接客をする。
もう数年のキャリアがあり、マルスの操作は慣れたもので、流れるように入力して発券。
機械から出てくる乗車券、特急券を、受け取って内容を確認する。

「あれ?秋田新幹線の切符が出てきた・・・」

いつもどおり発券したのに、いつもと違う!
行き先はちゃんと盛岡になっているのに、「やまびこ」になっていない。
マルスがおかしい?ひょっとして大変なことが起きたのかも!
慌てて先輩の元に駆け寄る。

「これって、秋田新幹線ですよね・・・、盛岡なのに「こまち」が出てきちゃって・・・」

先輩の女の子も「???」と、しばらく無言。

ちょっとちょっと、お嬢さんたち。秋田新幹線「こまち」は、盛岡まで「やまびこ」(当時)と連結して走りますから。東北新幹線を経由しないで、どうやって秋田まで行くと思っているの?

鉄道会社には、ディープなマニア社員が潜んでいて、彼らにはしょっちゅう驚かされる。
完全に贔屓目だが、旅行業の窓口の女の子たちの無知さには、驚かされても微笑ましく感じる。



  図解入門業界研究 最新鉄道業界の動向とカラクリがよーくわかる本




 業界のシリーズ本で、鉄道業界の本が新たに刊行された。
 筆者は亜細亜大学講師の佐藤信之氏。
 「鉄道ジャーナル」にも連載している人である。
 
 「交通政策」が専門なので、(就職を志す人にどれだけ役立つかは疑問だが)鉄道の施策に関わる法律にページを割(さ)いている。
例えば、新線の建設で、どの法律に基づいて、どの財源を使って補助金を出しているか、などの説明である。

その他、鉄道会社だけでなく、信号機メーカー、車両メーカーなどにも触れているところが、業界本としての完成度を高めている。

リクルートの調査によると、2010年卒の大学生の就職志望企業ランキングで、1位JR東海、2位JR東日本と、不況の影響で人気が上がっている鉄道業界。この本も売れ行き好調だとか。


 図解入門業界研究 最新鉄道業界の動向とカラクリがよーくわかる本
 佐藤信之(著) 秀和システム

(類書)

 よくわかる鉄道業界 (業界の最新常識)
 舛本 哲郎 (著), 小須田 英章 (著)  日本実業出版社

posted by 鉄道業界舞台裏の目撃者 at 20:31 | Comment(1) | TrackBack(0) | 某JRの愛すべき社員たち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする